意思疎通重視の「衝動型」と精度重視の「熟慮型」

2019年9月22日日本語教師のお仕事

 認知スタイルの一つに熟慮型/衝動型というものがあります。刺激に対する反応が即座に行われるか、一旦考えた後に行われるかの2つに分けられます。

 例えば、日本語を勉強し始めたばかりの1年生が私とすれ違うとき、うまく言葉が出てこず緊張して固まってしまう人がいます。習っているはずの「こんにちは」もすぐには出てこないようで、こちらから挨拶をしてようやく返ってくる人もいれば、それでもまだ反応ができない人もいます。何を話せばいいんだろうと迷っている状況から言葉を探し出すところまでは全ての学生同じですが、しかしその言葉が本当にこの場面で適切なのか、あるいは文法や単語が間違っていないか、発音は正しいかなどを考えてしまい、結局発話が遅れてしまうのが熟慮型です。一方、熟慮型ほど考えることなくどんどん発話していくタイプは衝動型に分類されます。

 私の学生の中で完全な衝動型と思われるのは、2年生で3人、3年生で1人、4年生で2人。この学生たちはとにかく快活。言葉が次から次へとぽんぽん出てきて、少ない語彙量でもほとんど完璧な意思疎通を図れます。相槌さえ打っていればコミュニケーションが成り立つくらいのときも多々あるくらいです。衝動型は誤りに対して最低限の気配りしかしないので単語や文法、発音の精度が低いのは欠点ではありますが、外国語でのコミュニケーションに向いています。臆せず話を続けることができるので会話が逆に弾み、私と仲が良くなりやすい傾向があります。

 ちなみに、先学期行われたこの地区のスピーチコンテストに参加した学生も衝動型でした。スピーチコンテストで命となる発音やアクセントに大きな問題がある学生だったのですが、この人選が結果として功を奏しました。衝動型の学生は即席スピーチに強いです。間違いを恐れず話し進めていく姿勢で大幅な減点になる沈黙状態を避けられ、最小限の言い淀みでやり過ごせます。どうやらリスク・テイキングがうまく、発音やアクセントが間違っていることで減点されるよりもとにかく言いたいことを言っていこうというスタンスをとることができるようです。

 この認知スタイルはどちらが良くてどちらが悪いというわけではなくバランスが重要だと言われるのですが、こと外国語での会話においては間違いなく衝動型の方が有利だと思っています。

 

 昨日、2年生の会話の授業で自分の故郷についてプレゼンしてもらいました。内容を十分に精査できる2週間もの準備期間を与えたので一見すると熟慮型のほうが有利そうに見えますが、じっくり内容を考えられるのは衝動型も同じです。この準備期間で単語や文法、発音などを修正してきた衝動型の学生は鬼に金棒です。

 プレゼンの「面白さ」についても大きな違いがあります。熟慮型はあらかじめ考えてきた進行でプレゼンしていく傾向があり、計画的に配置された笑いポイントを進行に則って通過していきます。雰囲気作りが伴わなければ不発に終わりがちです。一方、衝動型はプレゼン中に脱線しやすく、本人も計画していなかったであろう方向へと進んで聞き手の興味を集めることができます。それが雰囲気作りに繋がり、ウケやすくなるのだと思います。

 私は会話の授業を担当しているのでどうしても衝動型の学生が優秀と思ってしまいがちです。ところが他の読解や聴解の成績を見ると、会話で1番だった学生が必ずしも他の授業で1番であるとは限らないようです。より高い精度が求められる読解は熟慮型の方が向いていると考えられます。学年が高くなれば四技能の能力が満遍なく上がって苦手分野も克服していくのでしょうが、1年生や2年生の段階ではまず自分の認知スタイルによって得意分野が生まれているのかもしれません。

 
 認知スタイルを少し勉強してからは学生に対する見方が少し変わりました。その学生がどのタイプであるかを見極めて、そのタイプにあった指導を行っていくことが必要ということは分かりましたが、具体的な方法はまだまだ。日本語教師は来年で5年になりますがまだまだ経験不足ですね。





2019年9月22日日本語教師のお仕事