第二言語習得理論についてまとめ!

 
 

 

第二言語習得理論

 Skutnabb-KangasとToukomaaは1976年に、スウェーデン在住でフィンランド語を第一言語とする移民に「表面的には流暢に第二言語を操る子どもたちが、学業の場面においては困難を示す」という現象があることを発表した。その後、カナダ在住の英語を第二言語とする移民の子どもたちを対象に研究した結果、生活場面で必要な会話能力は2年ほどで学年相当のレベルに達するが、教科学習で用いられる言語能力は5年から7年かかることが分かった。この結果からカミンズ(Cummins)は1979年の論文でBICSとCALPの概念を提唱し、この2つの言語能力の違いに配慮したバイリンガル教育をしなければならないと主張した。

 

BICSとCALP

 BICS (basic interpersonal communication skills)/生活言語能力
 日常生活で最も必要とされる言語能力のこと。主に話したり聞いたりする能力が中心。日常生活の対人場面ではジェスチャーや表情、状況などの非言語情報が豊富にあるため、コンテクストに支えられているBICSの習得は認知的な負担が少なく、2年ほどで習得可能とされている。

 CALP (cognitive academic language proficiency)/学習言語能力
 教科学習などで用いられる抽象的な思考や高度な思考技能のこと。学習の場面では聞いたり話したりする能力も必要だが、BICSよりも読んだり書いたりする能力が特に必要になる。非言語情報があまりない低コンテクストの状態になりやすく認知的な負担が大きいため、習得には5~7年必要だとされている。

 言語発達が不十分な子どもにバイリンガル教育を強要すると認知発達にマイナスの影響を与え、言語発達が十分な子どもは二言語を流暢に扱える均衡バイリンガルへ近づくとともに、認知発達に大きなプラスの影響を与えたという研究結果から、カミンズは敷居仮説を提唱しました。

 

敷居仮説(Thresholds Hypothesis)

  カミンズ (Cummins)によって提唱された、バイリンガルの型と認知的発達の関係性をまとめた仮説。二言語を年齢相応の母語話者レベルで使用できる均衡バイリンガルの場合は認知上プラスの影響を与え、両言語とも十分なレベルにまで達していない限定的バイリンガルの場合は認知上マイナスの影響を与えるとされる。その中間に位置する、二言語のうち一方のみが年齢相応のレベルまで達している偏重バイリンガルの場合は、モノリンガルと同様、認知上プラスにもマイナスにもならないとされている。

三階 均衡バイリンガル このレベルの子どもへのバイリンガル教育は
認知的にプラスの影響を与える。
第二の敷居
二階 偏重バイリンガル このレベルの子どもへのバイリンガル教育は
認知的にプラスの影響もマイナスの影響も与えない。
第一の敷居
一階 限定的バイリンガル このレベルの子どもへのバイリンガル教育は
認知的にマイナスの影響を与える。

 バイリンガリズムの研究初期では、バイリンガリズムは天秤の上でお互いバランスを取っており、一方の言語が優勢になると他方は劣勢になると考えられていた。これが均衡理論(balance theory)である。カミンズはこれを分離基底言語能力モデルと呼び、その様子を風船でたとえた。
 同時にカミンズは自身の敷居仮説を実証するために共有基底言語能力モデルを提唱し、二つの言語を氷山にたとえた。

 

共有基底言語能力モデル(氷山説)と分離基底言語能力モデル(風船説)

  カミンズ(Cummins)によって提唱されたバイリンガルの言語能力についての2つのモデル。一つは脳内には2つの風船(言語)があり、一方が膨らむ(優勢になる)と他方は縮む(劣勢になる)とする考え方のこと。これを分離基底言語能力モデル(風船説)と呼ぶ。
 もう一つは、身につけた2つの言語はそれぞれ同じ基底部分を共有しているとする考え方のこと。共有基底言語能力モデル(氷山説)と呼ぶ。

 カミンズはさらに共有基底言語能力モデルと分離基底言語能力モデルの考えを拡張して、言語能力と認知能力を関連させる発達相互依存仮説を提唱した。

 

発達相互依存仮説(Interdependence hypothesis)

 カミンズ (Cummins)が提唱した、第一言語能力と第二言語能力の転移の可能性についての仮説。第二言語の発達は母語の言語能力に依存するとされる。第一言語が発達していれば第二言語も発達しやすくなり、第一言語が未発達だと第二言語も発達しにくくなる。
 この仮説は二言語能力を二つの氷山にたとえ、二つの言語は深層で共有基底言語能力(CUP:Common Underlying Proficiency)を有しているとされている。そして共有されている部分はCALPであると主張している。

 
 

中間言語(Interlanguage)

 中間言語とは、第二言語学習過程における発展途上にある言語体系のこと。母語の影響を受けながらも、徐々に目標言語に近づいていくものとされる。また、そのように徐々に近づいていく性質のことを可変性と呼ぶ。セリンカー (Selinker)が提唱した概念。

 

モニターモデル(Monitor Hypothesis)

 クラッシェン (S.D.Krashen)によって提唱された第二言語習得理論のこと。コミュニカティブ・アプローチの理論的基盤となった。以下の5つの仮説から構成される。

習得・学習仮説 言語を身につける過程には、幼児が母語を無意識に身につけるような「習得」と、学校等で意識的に学んだ結果の「学習」があるとし、学習によって得られた知識は習得に繋がらないとする仮説。このような学習と習得は別物であるという考え方をノン・インターフェイスポジションと呼ぶ。
自然習得順序仮説
自然順序仮説
目標言語の文法規則はある一定の決まった順序で習得されるとする仮説。その自然な順序は教える順序とは関係ないとされている。
モニター仮説 「学習」した知識は、発話をする際にチェック・修正するモニターとして働くとされる仮説。学習者が言語の規則に焦点を当てているときに起きる。
インプット仮説 言語習得は理解可能なインプット「i+1」を通して進むとする仮説。ここでいう「i」とは学習者の現時点での言語能力のことで、「+1」がその現在のレベルから少し高いレベルのことを指している。未習のものであっても、文脈から推測できたりする範囲のインプットを与えると、言語構造な自然に習得されるとする。
情意フィルター仮説 学習者の言語に対する自信、不安、態度などの情意面での要因がフィルターを作り、接触するインプットの量と吸収するインプットの量を左右するという仮説。

 クラッシェンは学習と習得は別物であるという立場(ノン・インターフェイスポジション)を取っているが、それとは逆に、学習で得た知識は習得に移行するという立場のことをインターフェイス・ポジション、インターフェイス仮説と呼ぶ。

 

インターアクション仮説

 ロング (Long)が提唱した第二言語習得に関する仮説。クラッシェンが提唱したインプット仮説の「理解可能なインプット(i+1)」も重要だが、学習者が目標言語を使って母語話者とやり取り(インターアクション)する場面で生じる意味交渉が言語習得をより促進させると主張した。意味交渉はインターアクションの中で生じる意思疎通の問題を取り除くために使われるストラテジーで、以下の3つに分けられる。

明確化要求 相手の発話が不明確で理解できないときに、明確にするよう求めること。
確認チェック 相手の発話を自分が正しく理解しているかどうか確認すること。
理解チェック 自分の発話を相手が正しく理解しているかどうか確認すること。

 

アウトプット仮説(Output Hypothesis)

 スウェイン (M.Swain)によって提唱された第二言語習得に関する仮説。クラッシェンが提唱したインプット仮説の「理解可能なインプット(i+1)」は必要だが、それだけでは十分ではないとし、相手が理解可能なアウトプットをすることでさらに言語習得が促されるとする仮説。相手が理解可能なアウトプットを行うことは3つの機能を担うとされている。

1.気づきの機能 アウトプットの場面で自分が言いたいことと言えないことの差に気づくことが新しい知識を得ようとするきっかけになり、言語習得が促進される。
2.仮説検証の機能 アウトプットによって自らの中間言語が正しいかどうか仮説検証する機会を得られる。
3.メタ言語的機能 アウトプット時に自らの言語使用に関する意識的な内省が生じ、それが習得に繋がる。

 

最近接発達領域/発達の最近接領域(ZPD:Zone of proximal development)

 子どもの物事が「できる」段階と、「できない」段階の中間的な段階のこと。子どもは突然何かできるようになるわけではなく、この中間的な段階で周囲の大人からアドバイスやサポートを受けて何かできるようになっていくと考える。また、最近接発達領域において周囲の大人が行う様々なアドバイスやサポートなどの支援のことをスキャフォールディング(足場掛け)という。適切なタイミングで適切な支援が行われることで習得が進むと考えられる。ヴィゴツキー (L.S.Vygotsky)が提唱した。
 

臨界期仮説

 レネバーグ (Lenneberg)によって提唱された母語習得に関する理論で、言語習得には臨界期が存在し、ある年齢を過ぎると母語話者のような言語能力を習得するのは難しいとする仮説。この臨界期は思春期の12歳~13歳頃とされている。
 

有標性差異仮説

 エックマン (Eckman)によって提唱された、母語と第二言語との間に言語的な特殊な違いがある場合は習得困難となり、単純で一般的なものである場合は習得しやすいとする仮説。特殊なルールを持つより複雑なものを有標、一般的で単純なルールを持つものを無標と呼ぶ。
 

処理可能性理論/学習可能性理論

 ピーネマン (Pienemann)が提唱した仮説で、人は言語処理レベルが単純なものから習得し、複雑なものほど後に習得されるというもの。語は最も単純で習得しやすいが、句や文になると複雑になるので習得しにくいとされている。
 

教授可能性理論

 ピーネマン (Pienemann)によって提唱された処理可能性理論を前提とする仮説。学習者はたとえ指導を受けたとしても段階を超えて習得することはできないとし、したがって段階を踏んだ指導は学習の効率を高められるとされている。
 

創造的構築仮説

 学習者が第二言語を習得する際には、母語とは独立した新しい言語体系を作り上げていくという仮説。言語体系は0から新しく作り上げられると考えられているため、母語による影響はほぼないとされている。
 

根本的相違仮説

 幼い子どもが言葉を覚えるメカニズムと、大人が第二言語を習得するメカニズムは根本的違うものであるとする仮説。大人が第二言語を習得する際には大きな個人差があるものの、子どもにはあまり差が見られない。
 

対照分析仮説(Contrastive Analysis Hypothesis)

 母語と第二言語の言語間の類似点・相違点を比較することによって、学習の難易度や誤りを予測することができるとする仮説のこと。つまり類似点が多ければ学習は容易になり、相違点が多いと困難になることを示している。そしてその相違点に焦点を当てることで学習が効率的になるとする。





2020年9月9日日本語教育能力検定試験 解説, 用語集