多重貯蔵モデルとワーキングメモリ、記憶についてまとめ!
多重貯蔵モデル
1968年、アトキンソンとシフリン(Atkinson & Shiffrin)は多重貯蔵モデル(Multi Store Model of Memory)を提唱した。当初は短期記憶と長期記憶の二重貯蔵モデル(dual storage model)だったが、感覚記憶を短期記憶から分離して多重貯蔵モデルと呼ばれるようになった。記憶は情報の保持時間の長さによって短期記憶と長期記憶に分けられる。
短期記憶(short-term memory) | 記憶をとどめようとしなければ数秒から十数秒で忘却が生じる記憶領域。一時的な情報の保持に用いる。容量は大きくない。 |
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長期記憶(long-term memory) | 長期的かつ半永久的な情報が貯蔵されている、容量に限界のない記憶領域。 |
その後、1986年にバドリーとヒッチ(Baddeley & Hitch)がワーキングメモリ(working memory)という概念を提唱する。作動記憶、作業記憶とも呼ばれる。ワーキングメモリは情報を一時的に保持する機能だけでなく、情報を処理する機能があるとする。貯蔵された情報は7秒ほど保持し、情報が長期記憶に転送されなければワーキングメモリ上から消され忘却が生じる。近年は短期記憶をさらに発展させ、ワーキングメモリの概念を用いるのが主流となっている。
ワーキングメモリの働き
以下は「36+13-12=」を計算するときの流れ。
①「36」と「13」を短期記憶に保持する。
②短期記憶から「36」と「13」を取り出してワーキングメモリで計算する。
③計算結果「49」を短期記憶に保持する。
④「36」と「13」は不要になったので短期記憶から消され、忘却する。
⑤「-12」を短期記憶に保持する。
⑥短期記憶から「49」と「-12」を取り出してワーキングメモリで計算する。
⑦計算結果「37」を短期記憶に保持する
⑧「49」と「-12」は不要になったので短期記憶から消され、忘却する。
学習者が第二言語を用いる際、ワーキングメモリの処理能力をその第二言語の処理にとられるため思考力が低下することがある。この現象のことを外国語副作用という。
記憶の過程
記憶の過程は「符号化」「貯蔵」「検索」の3つのプロセスからなる。
感覚器官から受け取った情報は、まず感覚記憶に一時的に保持される。視覚情報は1秒、聴覚情報は2秒程度保持されると言われている。受け取った情報のうち、注意されなかったものは忘却し、選択的注意を払ったものはインプットとなり短期記憶に移行する。この過程を符号化(記銘)と呼ぶ。
短期記憶では何もしなければ時間の経過によって記憶が消失するが、リハーサルを行うことで記憶の保持時間を伸ばしたり、長期記憶に転送することができる。
長期記憶では求める情報を探したり、取り出したり、整理したりできる。この操作を検索(想起)と呼ぶ。長期記憶に転送された記憶は半永久的に貯蔵(保持)されるが、時間の経過や記憶の干渉が起きることで消失していくと考えられている。また、記憶は消失するわけではなく、想起(検索)がうまくできずに情報にアクセスできないという考え方もある。
リハーサル
インプットされた情報を忘れないようにとどめておいたり、長期記憶へ送ったりする方法をリハーサルと呼ぶ。
維持型リハーサル | 忘却を防ぐため、情報を短期記憶にとどめておくための方法のこと。忘れないように復唱したり、口ずさんだりする行為など。 |
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精緻化リハーサル | 情報を長期記憶に転送するための方法のこと。長期記憶に貯蔵されている情報と関連付けたり、関連する場面や状況をイメージしたりする行為など。維持型リハーサルよりも長期記憶へ転送される確率が高い。 |
長期記憶に貯蔵されている記憶
長期記憶に貯蔵されている記憶は、言語化できる宣言的知識と、言語化できない(しにくい)非宣言的知識に分けられる。
宣言的知識はさらにエピソード記憶と意味記憶に分けられる。
宣言的記憶陳述記憶顕在記憶 | エピソード記憶(episodic memorry) | 個人的な経験や思い出などの一連の出来事に関する記憶。いつ、どこで、誰と、何をしたかなど。 |
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意味記憶(semantic memory) | 一般的な知識・情報に関する記憶。事実や概念など。 | |
非宣言的記憶非陳述記憶潜在記憶 | 手続き記憶(procedual memory) | 運動や使い方などの身体で覚えた記憶。自転車の乗り方など。 |
プライミング(priming) | あらかじめ提示された事柄(プライム)によって活性化した記憶。 |
第二言語習得研究において、記憶した語彙や文法、発音などが無意識で使えるようになること、あるいは宣言的記憶が繰り返しによって手続き記憶に移行することを自動化と呼ぶ。
エビングハウスの忘却曲線
中期的記憶の忘却を表す曲線。
間隔を空けた再学習によって記憶は100%に復活し、忘却を防ぐことができる。短い時間でも何度か復習すれば長期記憶に転送することができる確率を高めることができる。
記憶術
チャンキング(chunking) | 覚えるべき対象をいくつかのかたまりに分けて覚えやすくすること。人が知覚するその情報のまとまりをチャンク(chunk)と呼ぶ。人が短期記憶として一度に覚えられるものは4~7個の情報だとされており、それ以上覚えておくために必要となる。ミラーは短期記憶の容量限界を「7±2チャンク」としたが、2001年ネルソン・コーワンの論文では「4±1チャンク」であると提唱されている。この数字はそれぞれマジカルナンバー7、マジカルナンバー4と呼ばれている。 |
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キーワード法 | 目標言語の覚えたい語と音韻的に類似した母語の言葉のイメージと結びつけ、その関連性によって語とその意味を記憶する方法のこと。 |
生成効果 | 記憶を定着させるための方法の一つ。自分で問題を作ったり解いたりする方法のこと。 |
体制化 | 記憶を定着させるための方法の一つ。単語などを分類し、整理すること。 |
二重符号化 | 視覚情報と聴覚情報を統合し、お互いに関連付けること。例えば、単語を覚える際に、スペルを見ながら読み上げるなど。単に見たり、読んだりするよりも記憶に残りやすい。 |
自己関連付け効果 | 新しい情報を自己と関連させて処理することで、他者に関連させて処理した場合よりも情報は深く処理され、記憶が促進されるという記憶現象のこと。 |