言語接触と言語変種についてまとめ!

 ここでは言語接触と言語変種についてまとめています。
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目次

 

言語変種について

 言語変種 (variation)とは、同一言語の中の異なった言語形式のこと。標準語や方言、性差や年齢、立場、職業などの違いによって異なる言語形式を持つ。地域方言と社会方言に分けられる。

 

地域方言

 地域差による異なった言語形式のこと。「~弁」「~訛り」などのいわゆる「方言」を指す。
 以下は地域方言にまつわる用語。

共通語/標準語 共通語は同一言語を用いる文化圏で生活環境や方言の異なる者同士が、全国どこでも誰とでも意思疎通することができる言語のことであり、標準語は共通語よりも洗練され、人々への使用の強制力を有する最も規範的な言語のことをいう。この両者は厳密にいうと異なる定義を持つが、現在では同じ意味として用いられることが多い。
方言周圏論
周圏分布型
特定の語や音、言語形式が、文化的中心から同心円状に伝播していくような分布を示すこと。柳田国男が提唱した。
東西分布型 特定の語や音、言語形式が、東日本と西日本で対立しているような分布を示すこと。
新方言 若者が方言から取り入れた標準的ではない言い方のこと。「~じゃんか」「~分からんくなった」など。
ネオ方言 標準語と方言の混淆形式として生まれた中間的な言い方のこと。方言の「けーへん」、標準語の「こない」が混淆して「こーへん」となるのが代表的な例。
方言コンプレックス 自分の使う方言に対する劣等感のこと。
方言コスプレ 自分が演じたい人物像や雰囲気に合わせて方言を用いること。用いる方言は地元の方言とは限らない。
方言札 方言矯正教育として、方言を話した人に対する罰として首に下げさせた木札のこと。標準語の使用を強制させるために行われ、特に沖縄で厳しく行われていた。

 

社会方言/位相語

 社会方言/位相語とは、性差、年齢、年代、階層差、階級差、職業、生活環境、趣味、嗜好などの位相の違いによる言語変種のこと。位相差を持つ語のこと。ここでいう位相とは社会的属性や表現の様式、心理的要因などに見られる言語の特有の様相を指し、それらの言語の差を位相差と呼ぶ。

 研究者によって微妙に異なるところはありますが、ここでは社会的要因によるもの、様式的要因によるもの、心理的要因によるものの3つに分けて触れます。

社会的要因
によるもの
・幼児語、若者言葉、老人語などの世代差
・男性語、女性語、てよだわ言葉にみられる性差
・業界用語、専門用語などの職業や分野による差
・廓詞、女房詞などの身分による差
・キャンパス言葉、ギャル語(ギャル文字)などの集団による差
・地域による差(方言)
・役割語  等々…
様式的要因
によるもの
・「めっちゃ」「かなり」「とても」「非常に」などの話し言葉、書き言葉の差
・時候の挨拶、公的文書、お役所言葉などの特別な表現
・SNSのメッセージに見られる顔文字、絵文字など  等々…
心理的要因
によるもの
・忌み言葉を避けた表現を使う
・羞恥、畏怖、嫌悪、敬服の気持ちから直接的な表現を避けたり、表現を変える
・美化語「お」「御」などで丁寧な表現を使う
・仲間意識を高めるために使う隠語や砕けた表現、俗語(スラング)など
・敬語やマイナス敬語などの相手に対して何らかの配慮をする待遇表現  等々…

 キャンパス言葉などは集団による差の社会的要因ですが、仲間と打ち解けたいと思って使う場合は心理的要因とも捉えられます。どちらかに必ず分類されるわけではなく、複数にまたがることもあります。

 ハリーポッターではヴォルデモートを恐れから「例のあの人」「名前を言ってはいけないあの人」などと呼び、またデスイーターも恐れや敬服の念から「我が君」「ご主人様」「あのお方」「闇の帝王」などと呼んでいます。これは心理的要因による位相語です。

 このうち役割語は少し特別です。
 役割語とは特定の人物像を想起させる言葉のことです。「わし」からは老人、「わたくし」からは気品のある女性をイメージできたりします。実際に使われていたものをステレオタイプ化した表現が多いですが、存在しないものや人以外の生き物にも用いられたりします。棒読みの「ワレワレハウチュウジンダ」が宇宙人を表したり、「~ニャ」「~ワン」、ピカチュウの「ピカピカ」などもそうです。

 そのほとんどは実際の言語活動にはほとんど見られませんが、ドラマ、映画、小説、アニメなどにおいて、聞き手にその登場人物のイメージを一瞬で想起させ植え付けることができます。

 以下は社会方言/位相語にまつわる用語。

廓詞
(くるわことば)
江戸時代の遊郭で遊女が使った言葉遣いのこと。「あります」を「ありんす」というなど。
女房詞
(にょうぼうことば)
宮中の女官が使い始めた言葉のことで、語頭に「お」をつけたり、語末に「もじ」をつけたりする。現代でも用いられている言葉もある。
てよだわ言葉 明治時代に発生した、文末に「てよ」「だわ」をつける女性語の言葉のこと。現代では用いられなくなり、「だよ」「だね」「じゃん」などが用いられるようになっている。
ティーチャートーク 教師が学習者に対してする話し方のこと。ゆっくりはっきり話したり、言葉を選んだりする。相手のレベルによって話し方は変わる。
ベビートーク 赤ちゃんに対する話し方のこと。
フォリナートーク 母語話者が非母語話者に対してする話し方のことで、ゆっくり話したり、繰り返したり、簡単な語彙や文法を扱って分かりやすいように話すのが特徴的。
やさしい日本語 日本語に不慣れな外国人にも理解できるよう分かりやすくした日本語のこと。1995年1月の阪神・淡路大震災で日本語に不慣れな外国人に必要な情報を伝えることができなかったことがきっかけとなり、災害発生時に適切な行動をとれるように考え出された。

 

その他言語変種について

言語使用域/レジスター (Register)

 場面や状況、内容、人間関係、口頭か文書か等に応じて使い分けられる言語変種のこと。例えば、母親の前では「ママ」、学校などで母親について触れるときは「お母さん」、比較的改まった場では「母親」と呼んだりすることが挙げられる。つまり、同じ役割を持つ語を状況によって使い分け、それぞれの語がそれぞれの使用域を持っていると考える。

 

スピーチレベルシフト/スピーチスタイルシフト

 1つの場面で1人の話者が普通体から丁寧体、あるいは丁寧体から普通体へと切り替えて丁寧さの度合いを変化させること。

 

ダイグロシア

 ある社会において高変種と低変種の二つの言語変種が存在し、それぞれが場面や状況によって使い分けられている状態のこと。高変種とはいわゆる公的な場面で使用される言語形式のことで、H(High)変種とも呼ばれる。低変種は口語や方言において現れる、より私的な場面で使用される言語形式のことで、L(Low)変種とも呼ばれる。両言語は言語形式が全く異なり、使用される場面も明確に区別されている。ファーガソン(Charles A.Ferguson)が提唱。

 

アコモデーション理論 (Accommodation Theory)

 ジャイルズ (Giles)によって提唱された、相手によって自分の話し方を変える現象を説明するための理論。相手の言語能力によって話し方を変えるフォリナートーク、赤ちゃんに対する話し方のベビートーク、世代間のギャップを無くそうとわざと若者言葉を使って年下の人々に受け入れられようとすることもその一種。その性質からダイバージェンスとコンバージェンスに分けられる。

言語的収束
コンバージェンス
自分の話し方を相手の話し方にできるだけ近付けていくこと。上司が部下に受け入れられるために若者言葉を使ったりすることなどがこれにあたる。
言語的分岐
ダイバージェンス
自分の話し方を相手の話し方からできるだけ離していくこと。関西圏でも共通語を使おうとすることなどがこれにあたる。

 

顕在的権威と潜在的権威

 トラッドギル(P.Trudgill)により提唱された概念。

顕在的権威
(overt prestige)
社会的地位が高く見られている標準的な言語形式(H変種)を無意識に好む傾向のこと。一般に、年齢が高くなるにつれ若者言葉やスラングなどの使用が減り、社会的地位が高く見られている言語変種を用いる傾向がある。
潜在的権威
(covert prestige)
社会的地位が低く見られている非標準的な言語形式(L変種)を無意識に好む傾向のこと。一般に、年齢が低いほど社会的地位が低く見られているスラングなどの言語変種を用いる傾向がある。

 

コード・スイッチング (code switching)

 相手や場面、話題に応じて言語そのもの、あるいは同一言語内の言語変種を使い分けること。標準語も方言を言語変種のため、これらを使い分けることもコードスイッチングの一種となる。これらは会話的コードスイッチング、状況的コードスイッチング、隠喩的コードスイッチングの3つに分けられる。

会話的コードスイッチング 会話の流れを維持しながら行われるコードスイッチングの一種で、情報を補足したり、相手の発話を引用したり繰り返したりするなどに用いるコードスイッチングのこと。
状況的コードスイッチング 状況や場面に応じて行われるコードスイッチングの一種。外的要因によってスイッチするものを指す。
隠喩的コードスイッチング 話し手との親密さや連帯感を強めるために行われるコードスイッチングの一種で、発言に何らかの特別なニュアンスを付与するために起こるもの。内的要因によってスイッチするものを指す。

 

言語接触について

 言語接触 (language contact)とは、異なる言語や言語変種を使用する者同士が社会的に接触すること。またはその接触によって生じる現象のこと。

 言語接触によって起きる現象は以下の5つに分類される。

取り替え
標準語化
既存の単語があるところに新たな同義の単語が伝播し、その新たな単語が既存の単語を追いやり取って代わること。
混交 既存の単語と新たに伝播した単語が合わさり、双方の一部分を残しつつ新たな単語が生まれること。
導入 混乱を避けるため、英語などのリンガフランカから全く新しい単語を導入すること。
棲み分け 既存の単語と新たに伝播した単語を多少異なるものとして役割を分担させ、共存させること。
維持 新しく伝播した語を受け入れず、元々の語を維持すること。

 

ピジン/ピジン言語 (pidgin)

 異なる言語を話す者同士が意思疎通するため、お互いの言語の要素を組み合わせて作られた接触言語のこと。お互い正しい意思疎通をするために文法が単純化されたり、一つの単語が多義的に用いられたり、発音も簡略化される傾向がある。また、 文法が単純化されたり、一つの単語が多義的に用いられたり、発音が簡略化されていく過程をピジン化/言語の単純化と呼ぶ。

 

クレオール/クレオール言語 (creole)

 ピジン言語が長期間使用されることによってその地域の共通言語として定着し、母語として話されるようになった言語のこと。ピジンよりも単語が多くなり、文法が整っている傾向がある。また、母語として定着していく過程をクレオール化と呼ぶ。

 

共通言語/リンガ・フランカ (lingua franca)

 異なった言語を話す人や集団同士の意思疎通に用いられる言語のこと。日本語を学習している中国人と韓国人が意思疎通するために日本語を使用するとき、日本語が彼らのリンガ・フランカといえる。現代では英語が全世界に広く普及しているため、単に英語のことを指すこともある。





2020年9月7日日本語教育能力検定試験 解説, 用語集