平成25年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ 問題11解説

問1 スクリプト

 スキーマとは読解のときにそのテキストをどう理解しているのかを説明する概念で、具体的な特徴を取り除いた、過去の経験や外部環境についての構造化された知識のことです。例えば「外から鳴き声が聞こえる。姿は見えない。ネコはどこだ?」の「ネコ」は、動物の猫を指しているとすぐ分かります。農業や工事現場で使うネコ(手押し車)を想像する人はきっといないはずですよね…。 ここでは「鳴き声」から動物に関するスキーマが活性化したので、「ネコ」は猫だと自然に理解できるようになっています。人は文の一部から特定のスキーマを呼び出して利用し、そのスキーマに合わせて理解を進めていきます。

 このスキーマの中には、スクリプトというものもあります。これはレストランでは「入店して、席に座り、注文して、食べて、会計して、退店する」のような一連の手続き的な知識のことです。「服を見るためお店に入った。しばらくしたら店員が寄ってきた。」では、店員が寄ってきた理由はおそらく「服をお勧めしたりの接客だろう」と予想できます。こんな予想が自然にできるのは、「店に入る、店員が寄ってくる、試着する、買う」のような服屋のスクリプトがあるからです。

スキーマ 具体的な特徴を取り除いた、過去の経験や外部環境についての構造化された知識のこと。
スクリプト スキーマのうち、一連のできごとの流れに関する知識のこと。例えば、「レストランでは、入店して、席に座り、注文して、食べて、会計し、退店する」のような一連の手続き的な知識を指す。

 読解に活用されるスキーマは、形式スキーマと内容スキーマに分けられます。この2つを用いて読み進めていきます。

形式スキーマ テキストの文章構造、言語形式に関する知識のこと。論文、説明文、小説、新聞、詩などにおける文章構造、展開の違いについての知識や、文字、つづり、語彙などの形式に関する知識。
内容スキーマ 読み手自身の経験や知識から構成された、社会的・文化的に関する背景知識のこと。お店、病院、経済、歴史などなど…

 1 修飾構造に関する知識は形式スキーマ
 2 経験から蓄積された知識(背景知識)は内容スキーマ
 3 物語文の文章構造についての知識は形式スキーマ
 4 一連のできごとの流れについての知識なので、これがスクリプトです!

 したがって答えは4です。

 

問2 橋渡し推論

 文章中に明示されていない情報を予想することを推論といいます。推論は2つに分けられます。

橋渡し推論 直接表現されていないことを、文脈や既有知識によって理解すること。例えば、「向こうで一輪車を練習してた子供が大きい声で泣いていた。私は近づいて、『大丈夫?』と声をかけた。」では、「子供は一輪車から落ちて怪我をした」という推測がこれ。橋渡し推論は読解中に常に行われており、正しく推論できなければ理解に大きな支障が生じる。
精緻化推論 文章から読み取った事柄をもとに具体的なイメージを膨らませること。主人公の顔、髪型、表情、性格、様子を想像したりするのがこれにあたるが、実際想像したイメージは人によって異なる。橋渡し推論とは異なり、精緻化推論はできなくても理解には影響しない。

 選択肢1
 「それ」が指すものが「友達がくれたプレゼント」だと推測できなければ、前後の文の因果関係が理解できなくなります。正しく理解できなければ理解に支障をきたす推論は、橋渡し推論です。

 選択肢2
 今日徹夜するの明日のテストのために勉強するからです。「勉強するから徹夜する」と推測できなければ、前後の因果関係が分からず全体の理解もできません。橋渡し推論です。

 選択肢3
 新幹線に乗って京都で行ったんだと推測できなければ、なんで突然新幹線の話するの?ってなっちゃいます。正しく理解できなければ理解に支障をきたす推論は、橋渡し推論です。

 選択肢4
 富士山が見えるほど高いところに住んでるんだって想像するのは精緻化推論です。精緻化推論でのイメージは個人によって異なります。別に高層階に住んでいることを想像してもしなくても、文の理解には影響を及ぼしません。
 ちなみに…「きれいだった」が富士山のことを指していると推論するのは橋渡し推論です。それができなければ何をきれいと言ってるんだろう?って理解ができなくなります。

 したがって答えは4です。

 

問3 スキャニング

 読解において、普段のスピードよりも速く読むことを速読と言います。速読は以下の2つに分けられます。

スキャニング 大量の文章から特定の情報を探し出すための読み方のこと。名簿から特定の名前を見つけたり、辞書で言葉の意味を調べるときなどに用いる読み方。スキャニングにはトップダウン処理がより必要とされる。
スキミング 文章の要点や全体の大意を理解するための読み方のこと。

 1 トピックセンテンスとは、その段落で最も重要な主張をしている文のことです。全て読まなくてもそこだけ読み取れば段落の大意を把握できますので、このような読み方はスキミングです。
 2 「大意をとる読み方」がまさにスキミングの説明です。
 3 「必要な情報のみを拾い出す読み方」がまさにスキャニングの説明にあたります。
 4 多読の説明です。

 したがって答えは3です。

 

問4 補償ストラテジー

 学習する際に用いる学習ストラテジーは以下の6つに分けられます。

直接 記憶 記憶するために用いられるストラテジーのこと。知識と知識の知的連鎖を作ったり、語呂合わせなどで音やイメージを結びつけたり、繰り返し復習したり、単語カードを使ったりなどが挙げられる。
認知 理解を深めるために用いられるストラテジーのこと。メモしたり、線引きしたりなどが挙げられる。
補償 足りない知識を補うために用いるストラテジーのこと。分からない言葉を文脈から推測したりするなどが挙げられる。
間接 メタ認知 言語学習を間接的に支える間接ストラテジーのうち、学習者が自らの学習を管理するために用いるストラテジーのこと。学習のスケジューリングをしたり、目標を決めたりすることなどが挙げられる。
情意 学習者が自らの感情や態度や動機をコントロールするために用いるストラテジーのこと。自分を勇気づけたり、音楽を聴いてリラックスしたりすることなどが挙げられる。
社会的 学習に他者が関わるストラテジーのこと。質問をしたり、他の人と協力することなどが挙げられる。

 単語や音、文法などの言語知識を用いて、細かい部分から徐々に理解を進めていく言語処理方法をボトムアップ処理といいます。言語能力が不十分な学習初期の学習者がトップダウン処理を用いて理解しようとするのは、言語学習ストラテジーの補償ストラテジーです。補償ストラテジーとは、足りない知識を補うために用いるストラテジーです。分からない言葉を文脈から推測したりするのがこれに当たります。

 したがって答えは4です。

 





2020年10月1日平成25年度, 日本語教育能力検定試験 解説