平成25年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ 問題4解説

問1 時間の直示

 発話場面に依存して意味が決定する言語表現のことを直示、ダイクシスと言います。例えば、「これは美味しい」では、その場にいれば「これ」が何を指しているか分かりますが、その場にいなければ何なのか特定できません。また、Aさんが「私は女性です」と言えば「私」はAさんを指しますが、Bさんが言えば「私」はBさんを指します。「私」は常に話し手を指す人称代名詞なので、発話場面で指し示すものが変わる直示表現です。

 直示は以下の6つに分類されます。

人称直示 人物を指し示す人称代名詞全般。私、僕、あたし、俺、あなた、君、お前、この人、その人、あの人、これ、それ、あれ、彼、彼女、お母さん、お父さん、社長、部長、課長等々…
空間の直示 話し手のいる場所を基準にして指し示すもの。これ、それ、あれ等の指示代名詞、ここ、そこ、あそこなどの場所を指し示すもの、こっち、そっち、あっちなどの方向を指し示すもの、上下左右、前後など。
時間の直示 発話時との関係で時間を指定するもの。今日、昨日、明日、来月、来年など。
談話の直示 発話時よりも前や後の発言内容、文の一部や全体を指定するもの。さっきの話、そのこと、それ、あの話、その言い方、以上、以下など。
社会的直示 話し手の社会的地位を基準にして表される、聞き手や話題となる人物との社会的な立場の違いのこと。主に敬語のこと。
直示的動詞 話し手の視点を基準にした移動行為を表す「行く」と「来る」や、話し手を中心に行われる授受を表す「あげる」「もらう」「くれる」など。

 選択肢1
 「翌週」はある時点を基準とする時間名詞なので直示表現ではありません。時間の直示は発話時を基準にしたもののことです。

 選択肢2
 「明日」は今を基準とする相対時間名詞です。1月1日に「明日遊びに行こう」と言えば「明日」が指しているのは1月2日ですが、1月2日に「明日」と言えばそれは1月3日を指します。「明日」は実際に発話場面にいなければいつであるのか決定できない直示表現です。

 選択肢3
 「2013年」は時間を直接指定する絶対時間名詞です。発話時を基準にしていないので直示表現ではありません。

 選択肢4
 「6分間」は時間的な量を表す相対時間名詞です。発話時を基準にしていないので直示表現ではありません。

 したがって答えは2です。

 参考:相対時間名詞と絶対時間名詞からみる「明日」と「翌日」の違い

 

問2 談話の直示

 1 「それ」は「今回の失敗はあなたのせいだ」を指しています。文全体を指定しているので談話の直示です。
 2 「その」は空間の直示です。
 3 「あの」は時間の直示です。
 4 「あれ」は場所の直示です。もともとは食べ物を指している直示表現が、場所の直示として使われています。

 したがって答えは1です。

 

問3 ある直示表現が別の直示表現として使われるもの

「さっきの話」「そのこと」等の文の一部や文全体を指定するもの。

 1 「次」は本来時間に従って並べられた順序における一つ後を指す時間の直示だということまでは分かりましたが、なぜ談話の直示として理解されるのかは分かりません… (いい考え方があればご協力をお願いします)
 2 「この間」は本来2つの地点の中間を表しますが、ここでは以前の出来事のことを表しており、場所の直示が時間の直示として使われています。
 3 「あちら」は本来場所を表しますが、ここでは課長を指しており、場所の直示が人称の直示として使われています。
 4 「お前」は人称の直示です。

 選択肢1はよく分かってないんですが、4は間違いなく違う。
 ということで答えは4です。

 

問4 直示の体系

 1 正しいです。社長や部長、先生などは、その役職名で呼ぶのが一般的です。中国語でも「老师」「~经理」などと呼びます。
 2 他の言語については分かりませんが、少なくとも中国語には尊敬語や謙譲語などの体系的なシステムはありません。(敬称はあります)
 3 少なくとも中国語では「それ」と「あれ」が同じ「那」で表されます。日本語とは異なり、2つの対立です。
 4 日本語には幼児が使用する専用の自称詞はありません。通常幼児が初めて使う自称詞は自分の名前で、そこから「私」や「僕」に変わっていきます。

 したがって答えは1です。

 

問5 誤用の原因が直示に関わらない例

 1 「行く」というべきです。「来る」と「行く」は今いる場所によって変わる表現で直示的動詞です。直示に関する誤用です。
 2 「いらっしゃいますか」というべきです。直示とは関係なく、敬語の活用が間違っているだけです。
 3 「こちら」というべきです。人称の直示に関わる誤りです。
 4 不要な「に」がある誤りです。「昨日」のような発話時を基準とした相対時間名詞はニ格をとりません。時間の直示に関わる誤りです。

 したがって答えは2です。

 参考:相対時間名詞と絶対時間名詞からみる「明日」と「翌日」の違い





2020年10月12日平成25年度, 日本語教育能力検定試験 解説