平成30年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ 問題11解説
問1 フォーカス・オン・フォーム
教授法の言語習得観は3つに分けられます。それを簡単に説明すると…
文法訳読法やオーディオリンガル・メソッドは教師主導で文型を重視しているフォーカス・オン・フォームズの教授法です。
フォーカス・オン・フォームズの授業は文法、文型は確かに身につくんですが、コミュニケーション能力は全然ダメでした。そこでナチュラル・アプローチやコミュニカティブ・アプローチなどの意味を重視した学習者中心のフォーカス・オン・ミーニングの教授法が現れます。ところが… フォーカス・オン・ミーニングの授業も問題が出てきます…。確かにコミュニケーションは上手になるんですが、今度は文法がおろそかになってしまいました。
結局、文型を身につけられるフォーカス・オン・フォームズとコミュニケーション能力が身につけられるフォーカス・オン・ミーニングを合わせたフォーカス・オン・フォームの教授法が開発されます。タスク中心の教授法や内容言語統合型学習(CLIL)がこれにあたります。
1 意味を重視しながらも言語形式も扱うのはフォーカス・オン・フォームです! これが正解です!
2 オーディオリンガル・メソッドはフォーカス・オン・フォームズです。
3 母語で言語形式を導入? オーディオリンガル・メソッドです。つまりフォーカス・オン・フォームズ。
4 教師主導なのはフォーカス・オン・フォームズです。
したがって答えは1です。
問2 フォーカス・オン・フォームズ
言語習得観の簡単な流れはこのページの問1に書いています。そちらを参照してください。
1 大量に理解できるインプットを与えるのはナチュラル・アプローチです。これはフォーカス・オン・ミーニングの教授法です。
2 「ストーリーを語らせる」のは言語形式が正しいなんかよりも、ちゃんと言いたいことが伝わるかどうかが重要な意味重視の活動なのでフォーカス・オン・ミーニングです。
3 内容言語統合型学習(CLIL)の説明です。CLILは非母語で教科を学ぶ教育法のことで、フォーカス・オン・フォームに分類されます。
4 ドリルで文法問題を解いているので言語形式重視のフォーカス・オン・フォームズです。
したがって答えは4です。
問3 ディクトグロス
ディクトグロス
4技能を組み合わせて個人学習とピア・ラーニングが行える統合的な学習法のこと。まず文法構造が多少複雑な短めのまとまった文章を数回読み、学習者はそのキーワードを聞き取ってメモし、そのメモをもとに各自元の文章の復元を試みる。次にペアやグループで復元していき、文章を完成させていく過程をとる。
1 見出し、太字にする、下線を引くみたいなことですね
2 そんな教案作れる教師は諸葛孔明
3 ディクトグロスの説明です
4 なんだろ、タスク先行型ロールプレイ的な?
したがって答えは3です。
問4 プロンプト
訂正フィードバックは、暗示的か明示的か、インプット誘発型かアウトプット促進型かに分けられます。
暗示的フィードバックは会話の流れを保ったまま自然な応答の中でさりげなく訂正するタイプで、明示的フィードバックは誤用の存在をはっきりと示すタイプのフィードバックです。
インプット誘発型は学習者に正用を与えるタイプです。
アウトプット促進型は学習者に自己訂正を促すタイプでプロンプトとも呼ばれます。
暗示的 | 理解確認 | 学習者の発話に対して、自分の理解を述べ、正しいかどうかを確認する。 | 正用を提示するインプット誘発型 |
---|---|---|---|
リキャスト | 間違っている箇所のみを正しく言い直して提示する。 | ||
明確化要求 | 学習者の言っていることが理解できなかったことを伝える。 | 自己訂正を促すアウトプット促進型(プロンプト) | |
繰り返し(反復) | 間違っている部分や発話そのものをそのまま繰り返す。 | ||
明示的 | メタ言語的フィードバック | 文法を説明したり、情報を与えたりして間違っていることを教える。 | |
誘導(引き出し) | 途中まで文を与えるなどして、正しい言い方を引き出す。 | ||
明示的訂正 | 間違いがあることを指摘し、正しい言い方を提示する。 | 正用を提示するインプット誘発型 |
選択肢1
直接指摘して正用を提示しているので明示的訂正です。
選択肢2
会話の流れを遮っていないので暗示的フィードバック。「きれいでした」と答えを与えているのでリキャストです。
選択肢3
会話の流れを遮っていないので暗示的フィードバック。「きれいでした」と答えを与えているのでリキャストです。
選択肢4
誤用の存在をはっきり示しているので明示的フィードバックに分類されます。さらに文法説明をするメタ言語的フィードバックによって学習者に自己修正を促しているので、これがプロンプトです。
したがって答えは4です。
問5 プライミング効果
プライミング効果
あらかじめ提示された事柄(プライム)により、それに関連する別の事柄(ターゲット)が覚えやすくなったり、思い出しやすくなることです。教室においては、あらかじめ教師が手本を見せたり、授業に関連する内容の雑談をしておくなどすることで学習者の学習効率を高めることができます。
例えば、地球温暖化を扱う授業において、本題に入る前に天気の話したり、北極南極の話したり、学生の旅行したことがある場所の話したりして雑談を挟みます。そのあと地球温暖化に入ると雑談で活性化したプライミングが役立ち、学習効率が高まります。これがプライミング効果です。学習効率が高まるだけじゃなく、実際教室が盛り上がったりします。
1 他者が用いた言語形式を聞くことでそれに関する知識が活性化されて、自身の使用頻度も高まっています。典型的なプライミング効果です。
2 当たり前のこと言ってます。これに名前があるんですか?
3 これはコミュニケーション・ストラテジーの「回避」です。
4 記憶した語彙や文法、発音などが無意識で使えるようになり、いちいち考えずにその表現をひとまとまりで産出できるようになります。これは自動化。
したがって答えは1です。
ディスカッション
コメント一覧
とても解り安いなら説明で、本当に本当に感謝しています。
ただ、30年度の試験3,問題11の2番の③ですが、これはイマージョン教育ではないのですか。それなら、F on M ですよね。
教育問題について、人の名前、アプローチ、余りにもたくさんあって、混乱していましたが、貴殿の説明でようやく解りかけて来たところだったのに、また解らなくなってしまいました。。
すみません。目標言語を使うことはf on f ですか。
また、①のたくさん聞かせるは、オーディオリンガルアプローチだと思っていました。。
本当にお忙しいのにすみません。
>ハギハラ恵実さん
コメントありがとうございます。
確認しましたところ、目標言語で教科学習を行うのはイマージョン教育の特徴なのでFonMでした。私が間違っていたようです。大変申し訳ありませんでした。
修正しましたのでよろしくお願いいたします。
確認ですが、本日(3/12)に当解説の3を見ましたが、下記のようになっています。
フォーカス・オン・ミーニングではないのでしょうか?
よく理解できないまま照会します。失礼があったらすいません。
記
「3 内容言語統合型学習(CLIL)の説明です。CLILは非母語で教科を学ぶ教育法のことで、フォーカス・オン・フォームに分類されます。」
確認ですが、本日(3/12)に当解説の3を見ましたが、下記のようになっています。
フォーカス・オン・ミーニングではないのでしょうか?
よく理解できないまま照会します。失礼があったらすいません。
記
「3 内容言語統合型学習(CLIL)の説明です。CLILは非母語で教科を学ぶ教育法のことで、フォーカス・オン・フォームに分類されます。」
いつもありがたく利用させていただいてます。
ありがとうございます!
平成30年度の試験Ⅲ、問題11の問5の選択肢3は
コミュニケーションストラテジーの回避ではないでしょうか?的外れな意見でしたらすみません汗
>清水さん
ご指摘ありがとうございます!
「回避」は表現できなくてその話題自体を回避したり中断したりすることです。
見返してみたんですが、これは「言い換え」でした。解説修正しておきます。ありがとうございました!
本日(3/12)当解説を確認しました。下記のようになっています。
回避ではなく言い換えではないのでしょうか?
よく理解できない状態で、失礼を承知で、照会いたします。よろしくお願いします
記
「3 これはコミュニケーション・ストラテジーの「回避」です。」
いつも利用させて頂いています。ありがとうございます。平成30年度の試験Ⅲ、問題11の問4についてお聞きしたいことがあります。プロンプトは暗示的フィードバックだと書いてらっしゃるのですが、完全攻略ガイド4版を見ると、「美しいでした?」のように誤用をそのまま繰り返すのは明示的フィードバックに分類されていますがいかがでしょうか。お忙しいところすみませんが宜しくお願い致します。
>本田さん
ご指摘ありがとうございます!
調べましたところ、プロンプトは学習者に自己修正を促すタイプのフィードバックで、下位区分に暗示的なものや明示的なものが含まれます。よって暗示的フィードバックの下位区分にプロンプトがあるという記述は誤りでした。
「美しいでした?」というのは「繰り返し」というフィードバックに分類されます。
この「繰り返し」は答えを直接示さない暗示的フィードバックの下位区分であると同時に、相手にアウトプットを強制させるプロンプトの下位区分です。
フィードバックについては「https://nihongonosensei.net/?p=16761」に新しい内容をまとめましたのでご覧ください!
当サイトのフィードバックに関する解説は全て修正しておきます!
大変貴重なご指摘ありがとうございました!!
ご返信ありがとうございます。また、分かりやすい解説もありがとうございました。確認させて頂きました。
問題11-問4
選択肢1
本田さんのご指摘のように、これは明示的フィードバックですよね?
(本ページの本文より)
>明示的フィードバックは誤用の存在をはっきりと示すタイプのフィードバックです。
上記の定義に照らし合わせると、選択肢1は明らかに「違うでしょ。」と指摘していますし、「きれいでした」と正しい言い方を提示しているので、明示的フィードバックであり、「リキャスト」ではないと思います。
>Norikoさん
ご指摘ありがとうございます。せっかく表作ったのにまたまた間違ってましたね…
再度修正しました。選択肢1は明示的訂正で間違いございません。ご協力ありがとうございました!
お世話になっております。
H26の過去問Ⅲ問題12 問4に「リペア」というのが出てきて 明示的フィードバックでの対応が リペア
だったのですが プロンプトとリペアの違いは何でしょうか?
プロンプトの中の反復の部分が リペア との解釈で良いのでしょうか?
お忙しい中恐縮です😔ご教示頂けたらありがたいです。
>わたかわさん
プロンプトは正用を提示することなく自己修正を促すタイプのフィードバックです。
リペアは相手の何らかのフィードバックで自分の間違いに気付いたり、フィードバックがなくても自分自身で間違いに気付いたりして、それまでの発言を言い直したりすることです。リペア(修復)は自分で行うことですので、相手に対する訂正ではありません。
ありがとうございます!
相手からの反応などによって あれ 自分はなんか変なことあったかな?と気づきからの修正が リペア
で、相手からヒントを与えられてから修正するのが
プロンプト という事でしょうか。
短時間で???が解決できるサイトはなかなかありません。
読解力が低い私にとって 本当に神サイトです。