平成30年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ 問題9解説

問1 適性処遇交互作用

 適性処遇交互作用とは、学習者の適性(特性)と処遇(指導法)には交互作用があり、その2つの組み合わせにより学習効果に差が出るというものです。

 1 学習者の適性が変化することは適性処遇交互作用と関係ありません。
 2 学習者の適性が変化することは適性処遇交互作用と関係ありません。
 3 正しいです。
 4 適性を高めることは適性処遇交互作用と関係ありません。

 したがって答えは3です。

 

問2 認知スタイル

 認知スタイルとは、情報の知覚、符号化、体制化、記憶などに対して個人が一貫して示す方法のことです。教師は学習者の認知スタイルによって教え方を変えることで学習効率を高めることができます。

 認知スタイルはいろんな種類、分類がありますが、ここで出題されてるのは4つ。場独立型-場依存型と順序型-全体型です。

場独立型 視覚的な場に依存しないタイプのこと。このタイプの学習者は分析能力や論理的思考力が高いため、状況に依存することなく言語習得することができる。会話を行い経験を重ねながら身につけるよりも、単語や文法を直接暗記するような学習を好む傾向がある。年長者に比較的多い。
場依存型 何かを行う際に視覚的な場に依存するタイプのこと。このタイプの学習者は状況から意味を捉えようとするため、会話の中で経験を重ねることでより自然な言語の獲得が可能となる。暗記中心の学習よりも、視聴覚を使う活動やコミュニケーションを好む傾向がある。全体を直感的に理解する能力に長け、年少者に比較的多い。
順序型 情報を処理するときに、一つ一つ順序立てて情報を処理するタイプ。
全体型 情報を処理するときに、全体を一度に見渡せる形で情報を処理するタイプ。

 1 文法項目を学ぶような授業を好むのは、場独立型です。
 2 コミュニケーションを好むのは場依存型です。
 3 後ろの説明は何のタイプか分かりませんが… 少なくとも順序型の説明ではありません。
 4 全体型の説明です。「俯瞰的に捉えようとする」がヒントになります。

 したがって答えは4です。



問3 直接ストラテジー

 言語学習ストラテジーとは、学習する際に用いるストラテジーのことです。以下の6つに分けられます。

直接 記憶 記憶するために用いる暗記、暗唱、復習、動作などの記憶術。新しい知識を蓄え、蓄えた知識の想起を支えるもの。
認知 記憶した情報の操作や変換に用いるストラテジー。リハーサルしたり、既知の要素を組み合わせて長い連鎖を作ったり、分析・推論するなど。または、より理解を深めたりアウトプットするためにメモ、要約、線引き、色分けなどをして知識を構造化するなど。
補償 外国語を理解したり発話したりする時に、足りない知識を補うために用いるストラテジー。知識が十分でなくても推測やジェスチャーなどによって限界を越え、話したり書いたりできるようになる。
間接 メタ認知 学習者が自らの学習を管理するために用いるストラテジー。自分の認知を自分でコントロールし、自ら学習の司令塔となって学習過程を調整したり、自分自身をモニターする。
情意 学習者が学習者自身の感情、態度、動機などの情意的側面をコントロールし、否定的な感情を克服するためのストラテジー。自分を勇気づけたり、音楽を聴いてリラックスしたりするなど。
社会的 学習に他者が関わることによって学習を促進させるストラテジー。質問したり、明確化を求めたり、協力したりするなど。

 1 間接ストラテジーの社会的ストラテジー
 2 間接ストラテジーのメタ認知ストラテジー
 3 直接ストラテジーの認知ストラテジー
 4 間接ストラテジーの情意ストラテジー

 したがって答えは3です。

 

問4 不安を軽減するための教室作り

 1 競争心を刺激すると、かえって学習者の不安を煽りかねません。
 2 達成可能な課題なので安心させられますし、成功体験を重ねさせれば不安も軽減できます。
 3 自分自身をモニターし、客観的に見ることができるようになれば不安も軽減できそう。
 4 選択肢2と同じで、その学習者ができることをさせて自信を持たせると不安も軽減させられます。

 したがって答えは1です。

 

問5 内発的動機づけ

  行動の原動力となるものや、そのきっかけのことを動機づけといいます。いわゆるモチベーションです。そのモチベーションの源泉が外部なのか内部なのかで分けられます。

外発的動機づけ 外部からの報酬を得るため、罰を回避するための行動の原動力となるもの。
内発的動機づけ 自分の内側から湧いてくる行動の原動力となるもの。好奇心や興味によることが多く、長期間持続しやすい。

 例えば、母親と子供が「歴史のテストで100点取ったらゲーム買ってあげる。80点以下だったらお小遣い減らすよ」と約束し、子どもは歴史の教科書をたくさん読むようになった場面を考えてみます。子供が歴史の教科書を読んでいるのは、ゲームという報酬を得るため、そしてお小遣い減額という罰を回避するためなので、外部要因によって教科書を読んでいることになります(外部的動機づけ)。
 逆に「歴史が大好きで子供のころから本をたくさん読んでいた。」という子供がいたとします。この子供が歴史の本を読んでいるのは好きだからです。つまり内部要因によって本を読んでいます(内部的動機づけ)。

 
 これは「学習者の内発的動機づけを促すもの」を考える問題です。

 選択肢1
 外部から勧められて何かをすると、それがきっかけで好きになって没頭するなんてこともあるかもしれませんが… あまり多くはなさそう。「これやってみて」と勧めた時点では「勧められたから1回やってみようかな」くらいの気持ちなので、外部要因で行動が行われています。

 選択肢2
 教師が学生に「試験の合格を目指してみて」と言ったところで、試験を受けて得られる報酬は合格です。
 合格は外部要因なので外発的動機付けです。

 選択肢3
 「成績高かったらご褒美あげるよ」というと、褒美を得るために頑張ろうとします。これは外発的動機付けです。

 選択肢4
 クラスメートと一緒に学ばせると、そういう環境が楽しい、学習が進む!と思うかもしれません。内発的動機づけを与えられる可能性があります。

 したがって答えは4です。

 




2023年8月26日平成30年度, 日本語教育能力検定試験