平成29年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅱ 問題5解説
1番
この教材は「初級の日本語学習者向けの聴解教材」だそうですが、偏る、炭水化物、たんぱく質、負担、気分転換、バランスなど、初級のレベルに合っていない語彙が多く含まれています。
聴解教材内の問いは「男が気をつけるべきことは何?」でした。医者は「野菜のほかに、炭水化物とかたんぱく質とかいろいろ食べてくださいね。」と言っていますので、これが答えであることが分かります。しかし選択肢の2は「バランスよく食べるようにすること」と、言い換えた表現を用いています。よって、言い換えられた表現を聞き取る能力が必要です。
したがって問1の答えはc、問2の答えはbです。
2番
女性の「長ネギはあるけど、玉ねぎは…」には対比と省略の知識が必要です。「玉ねぎは」の後ろには「ない」が来るはずなのですが、ここでは省略されています。また、「ない」が来ることが分かるためには、「AだけどB」のような対比の文型の知識が必要です。
聴解問題では「1本」や「2個」と、数詞・助数詞が使われていますので、これらの知識も必要です。
転訛とは「手前」が「てめえ」のように訛ることで、このときの「てめえ」のように、訛った後の形を転訛形と言います。「買うもん」「思ってるんだけど」が転訛形ですが、この知識があるかどうかはこの問題で重要ではありません。
したがって問1の答えはdです。
問題は「男の人は何をいくつ買いますか?」なので、買う物とその個数の2つを聞いています。しかしこのような選択肢だと、買うものが玉ねぎだと分かれば何個買うかは関係なく選択肢2を選びます。その逆もまた然りです。出題意図と選択肢が合っていません。
したがって問2の答えはaです。
3番
問1 aについて
先輩も後輩も「ああー」という感嘆詞をよく使っています。「ああ、そうなんだ」は同意ですが、「ああ、レポートの締め切り明日なの、忘れてました」の「ああ」は驚きだったりします。文字にすると同じですが、感情によってイントネーションが変わっています。
「ああ」のイントネーションがどのようであるかによって意味が変わるというのは日本語母語話者にとってわざわざ気にしなくても自然に理解できることですが、学習者にとってどのようなイントネーションがどのような意味になるのか分からないこともあります。
では、そういったイントネーションと意味の違いを理解していなければこの問題は解けないのかと考えた時、そうではありません。先輩がどこに行くかを聞き取ればいいだけなので、aは除外されます。
問1 bについて
フィラーとは、言いよどみのことです。聴解問題中の「ああ」や「うーん、じゃあご飯だけ食べて…」の「うーん」がそうです。フィラーは主に次話すことを考える時間稼ぎをしたりする役割があるんですが、その役割を知っていてもこの聴解問題を解けるようにはなりません。「先輩はこれからどうしますか?」の問いはそこではないからです。
問1 cについて
聞き手への確認や同意を表す終助詞は「よね」を指しています。
先輩が「実は私もまだ課題が終わってないんだよね」と言う場面ですが、この終助詞を理解していても聴解問題が解けるようにはなりません。「先輩はこれからどうしますか?」の問いはそこではないからです。
問1 dについて
この問題の答えはこれです。
この聴解問題は少し厳しめに作られています。普通は「最初に話すのは後輩です」みたいに聴解問題の最初に登場人物を説明するようなものですが、そうではありません。「先輩はこれからどうしますか?」のあと、急に「お疲れ様です。」と始まっています。
「お疲れ様です」に対して「ああ、お疲れ」と言う場面で、日本語母語話者であればどちらが先輩でどちらが後輩か分かりますが、丁寧体と普通体の使い分け(スピーチスタイル)について知らない学習者にとっては判断がつかないはずです。
最終的に「いいんじゃない、私はそういうわけにはいかないけど」という言葉から先輩はご飯にもカラオケにも行くことが分かりますが、スピーチスタイルの違いが分からなければそれが先輩か後輩かも分からないわけで… したがってこの問題はスピーチスタイルについて知らなければ解けない問題となっています。
したがって問1の答えはdです。
先輩は後輩にこれからサークルのみんなでご飯食べてカラオケ行くことを伝えました。しかし「~行くみたいなんだけど行く?」のように、先輩が行くかどうかは曖昧です。また、自分も課題が終わっていないことを明かしたり、最後に「私はそういうわけにはいかないけど」などと、行くのか行かないのかは最後まで曖昧で分かりません。
したがって問2の答えはbです。