平成28年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ 問題10解説
問1 臨界期仮説
臨界期仮説とは、12~13歳頃を過ぎたら母語話者のような言語能力を習得するのは難しいとする仮説です。この12~13歳頃を臨界期と呼びます。でも外国人力士なんか見ると母語話者のように日本語を流暢に扱えてるので臨界期はないようなものだと思ってますけど…
選択肢4の内容がそうです。
したがって答えは4です。
問2 リキャスト
訂正フィードバックは、暗示的か明示的か、インプット誘発型かアウトプット促進型かに分けられます。
暗示的フィードバックは会話の流れを保ったまま自然な応答の中でさりげなく訂正するタイプで、明示的フィードバックは誤用の存在をはっきりと示すタイプのフィードバックです。
インプット誘発型は学習者に正用を与えるタイプです。
アウトプット促進型は学習者に自己訂正を促すタイプでプロンプトとも呼ばれます。
暗示的 | 理解確認 | 学習者の発話に対して、自分の理解を述べ、正しいかどうかを確認する。 | 正用を提示するインプット誘発型 |
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リキャスト | 間違っている箇所のみを正しく言い直して提示する。 | ||
明確化要求 | 学習者の言っていることが理解できなかったことを伝える。 | 自己訂正を促すアウトプット促進型(プロンプト) | |
繰り返し(反復) | 間違っている部分や発話そのものをそのまま繰り返す。 | ||
明示的 | メタ言語的フィードバック | 文法を説明したり、情報を与えたりして間違っていることを教える。 | |
誘導(引き出し) | 途中まで文を与えるなどして、正しい言い方を引き出す。 | ||
明示的訂正 | 間違いがあることを指摘し、正しい言い方を提示する。 | 正用を提示するインプット誘発型 |
1 誤りがあったことを直接教えるのは明示的フィードバックで、適切な表現まで提示しちゃうのは「明示的訂正」です。
2 会話の流れを保ったままなのは暗示的フィードバックで、適切な表現を提示するのは「リキャスト」や「理解確認」です。
3 自己修正を促すのはプロンプトで、間違えた表現を繰り返すのは「繰り返し」です。
4 自己修正を促すのはプロンプトで、「えっ」と聞き返すのは「明確化要求」です。
したがって答えは2です。
問3 バイリテラル
2つの言語を使用するバイリンガルはいろんな種類に分けられます。
四技能の熟達度 | 聴解型バイリンガル | ニ言語とも「聞く」はできるが、その他の技能は1つの言語でしかできないタイプ。 |
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会話型バイリンガル | ニ言語とも「聞く」「話す」はできるが、その他の技能は1つの言語でしかできないタイプ。 | |
読み書き型バイリンガルバイリテラル | 二言語で「聞く」「話す」「読む」「書く」の四技能ができるタイプ。 |
特にバイリテラルは二言語にまたがり四技能全てを年齢にふさわしいレベルまで使える理想的な状態です。うらやましいです。
1 四技能が二言語で年齢相応に発達しているのはバイリテラルです。
2 聞く、話す力が二言語で年齢相応に発達しているのは会話型バイリンガルです。
3 聞く力が二言語で年齢相応に発達しているのは聴解型バイリンガルです。
4 読む力が二言語で年齢相応に発達している状態に名前を付けるなら”読解型バイリンガル”ですが、これは間違い。バイリンガルの定義は「二言語を話す人」ですので、このケースはバイリンガルではなくモノリンガルです。読みだけが二言語で発達している状態は珍しいケースです。
したがって答えは1です。
問4 氷山説と学習言語能力
初めに答えを言いますと… 答えは3です。
カミンズは発達相互依存仮説という、第一言語能力と第二言語能力の転移の可能性についての仮説を提唱しました。この仮説では第一言語が発達していれば第二言語も発達しやすくなり、第一言語が未発達だと第二言語も発達しにくくなると述べています。そしてその二つの言語を二つの氷山にたとえました。
二つの氷山(言語)は、深層では共有基底言語能力(CUP:Common Underlying Proficiency)を有していると考えられています。そして共有されている部分はCALPであると主張しました。
というわけで、答えは3です。
問5 最近接発達領域(ZPD)
最近接発達領域/発達の最近接領域(ZPD:Zone of proximal development)
子どもの物事が「できる」段階と、「できない」段階の中間的な段階のことです。子どもは突然何かできるようになるわけではなく、この中間的な段階で周囲の大人からアドバイスやサポートを受けて何かできるようになっていくと考えます。
一人ではできないけど手伝ってもらえればできる段階、これがZPDです。
したがって答えは2です。