平成27年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ 問題3D解説
(16)丁寧体と普通体
丁寧体は、~です、~ます
普通体は、~だ、~である
丁寧体 | 普通体 | ||
---|---|---|---|
デス体/マス体 | ダ体 | デアル体 | |
名詞 | 猫です | 猫だ | 猫である |
イ形容詞 | 美しいです | 美しい | 美しい |
ナ形容詞 | 綺麗です | 綺麗だ | 綺麗である |
動詞 | 食べます | 食べる | 食べる |
デアル体は、名詞・ナ形容詞に「である」が付き、動詞・イ形容詞は「ダ体」が付きます。
したがって答えは3です。
(17)突然普通体が使用される場合
会話の中で丁寧体(です/ます)を使っていたのに、突然同じ相手に普通体が使用されることがあります。逆もそう。このような1つの場面で1人の話者が普通体から丁寧体、あるいは丁寧体から普通体へと切り替えて丁寧さの度合いを変化させることをスピーチレベルシフトと呼びます。
1 出来事をそのまま描写する場合
彼は「私は嫌だ」と言いました。
「それでは討論を始めます。テーマは”死刑制度は中止すべきか”です。」
「あっ、雨だ。傘を持ってきましたか?」
いずれも出来事をそのまま描写しています。引用、独り言などでは一つの文で丁寧さの度合いが切り替えられることがあります。
2 依頼や勧誘をする場合
依頼や勧誘をする場合は普通体を使用せず、丁寧体を使用します。
3 聞き手との心的距離を近づけようとする場合
「田中くんギターできるの?」「そう、そうです! 先輩もですか?」
たとえばこのような文のことでしょうか… 考えても思い浮かばないんですが、このようなケースなら心的距離を近づけようとする感じがありますね。
4 話し手の心情を表明する場合
「すごく美味しそうですね! さて、食べようかな~」
話し手の中で完結する独り言のようなものであれば、普通体になることもあります。
スピーチレベルシフトが起こらなさそうなのは2。答えは答えは2です。
(18)スピーチレベルシフト
上の問題でもう答えは出てます。スピーチレベルシフト、答えは3です。
ちなみに各選択肢を見ると…
1 コードスイッチング
相手や場面、話題に応じて言語そのもの、あるいは同一言語内の言語変種を使い分けることです。標準語も方言を言語変種のため、これらを使い分けることもコードスイッチングの一種となります。
2 アコモデーション理論
相手によって自分の話し方を変える現象を説明するための理論です。相手の言語能力によって話し方を変えるフォリナートーク、赤ちゃんに対する話し方のベビートーク、世代間のギャップを無くそうとわざと若者言葉を使って年下の人々に受け入れられようとすることもアコモデーション理論で説明できます。
4 言語使用域/レジスター
場面や状況、内容、人間関係、口頭か文書か等に応じて使い分けられる言語変種のことです。例えば、母親の前では「ママ」、学校などで母親について触れるときは「お母さん」、比較的改まった場では「母親」と呼んだりすることが挙げられます。つまり、同じ役割を持つ語を状況によって使い分け、それぞれの語がそれぞれの使用域を持っていると考えます。
(19)従属節の従属度が高い場合は普通体になる
それぞれの選択肢の条件下で、普通体しか使えないものを探します。
1 並列を表す「し」の前
(6)◯丁寧体:彼女は綺麗ですし、美しいですし、好きです。
(7)◯普通体:彼女は綺麗だし、美しいし、好きです。
2 逆接・対比を表す「けれども」の前
(8)◯丁寧体:具合が悪いですけれども、行きます。
(9)◯普通体:具合が悪いけれども、行きます。
3 思考の内容を表す「と」の前
(10)✕丁寧体:私は無理ですと思います。
(11)◯普通体:私は無理だと思います。
4 原因・理由を表す「ので」の前
(12)◯丁寧体:用事がありますので、失礼します。
(13)◯普通体:用事があるので、失礼します。
選択肢3の「私は無理」は従属節のうち引用節と呼ばれるものです。「と」を使って発言等を引用しており、文末が丁寧体でも従属節は普通体になっています。
したがって答えは3です。
ちなみに…
↑の本では「引用節は従属度が極めて低い従属節」と書かれています。しかしこの問題では、従属度が高いもののとして引用節が答えになっています。高いのか低いのか、正直混乱しています。
同時に、引用節のうち発言内容を表すものは従属節内に丁寧体も普通体も現れるものの、思考内容を表すものは従属節内に丁寧体は現れないとの記述もあります。確かにそうですね…。
引用節は基本極めて従属度が低い従属節ではあるけど、思考内容を表すものは従属度が高めということなんでしょうか。
こちらのページには、野田尚史(1996)の理論がまとめられており、引用節は従属度が高いというような内容が見られます。
ところがこちらのページでは、引用節は従属度が弱いものとして扱われていたり…
という状態です。可能性としては次の可能性が考えられます。
①下線部Cの「高い」の記述が間違っている。正しくは「低い」。
②協会側は野田尚史(1996)の理論で複文の問題を作っている。
③引用節は基本従属度は極めて低いけど、思考内容の引用節は高いという扱いになっている。
もし③だったら話は早いです。
思考内容の引用節は発言内容の引用節よりも確かに文法的要素の使用に制限があるので、独立性が低く、従属度は高めです。だからといって引用節を従属度が高いというのはちょっと変な感じがしないでもないですが。
野田先生が書いた本が欲しいんですが、高すぎてちょっと買えてません…。
この中身を確認できたら、この問題すっきりしそうですね。協会がどっちの立場を取っているのか知らないと…
複文の従属度について触れた問題は、平成23年度から令和2年度まで、この問題1問きりです。もしかしてこの問題、野田先生作りました?
(20)普通体による会話の特徴
普通体による会話では、いくつかの特徴があります。
1 名詞とナ形容詞の否定形では「では」は「じゃ」になる。
〇私がやったのではありません。
〇私がやったんじゃありません。
2 「が」「を」「に」「へ」などの助詞が省略されることが多い。
〇水飲みたい。(水が飲みたい)
〇うな重食べる。(うな重を食べる)
〇学校行ってくる。(学校に行ってくる)
〇学校行ってくる。(学校へ行ってくる)
ガ格とヲ格は強い格と呼ばれ、会話において省略しやすいです。ニ格とヘ格は中間的な格で、省略できるときもありますし、できないときもあります。それ以外の格助詞は弱い格で省略できません。この知識があればこの選択肢について検証しなくても正しいと分かります。
3 終止形だけで終わらず、終助詞が付くことが多い。
私も食べたいよ。(私も食べたい)
これ面白いよね。(これ面白い)
つきます。
4 終止形に「か」が付加された疑問文は主に女性が用いる。
これ食べるか?
一緒に行くか。
どちらかというと主に男性が用います。
したがって答えは4です。