平成27年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ 問題3B解説
(6)単純語と合成語
選択肢1
2つ以上の形態素からなる合成語のうち、自由形態素の反復からなる語のこと。人々、我々、日々、時々、寒々、山々、早々、細々、知らず知らず、いろいろ、きらきら、ねばねば…
選択肢2
語構成において2つ以上の形態素からなる語のこと。「草花」「焼き肉」「取り出す」「走り切る」「暑苦しい」「お金」「人々」など。組み合わされた形態素の種類や特徴によって、更に複合語、派生語、畳語に分けられる。
選択肢3
言語類型論における形態論の特徴に基づいた言語の分類の一種で、特に動詞に他の意味的または文法的な要素が接続され、語だけで文に相当する意味を表現することができる言語のこと。アイヌ語など。
選択肢4
2つ以上の和語、漢語、外来語の組み合わせからなる複合語のこと。
単純語は一つの形態素でできてる語で、二つ以上の形態素からできているのが合成語です。
したがって答えは2です。
(7)[名詞+名詞]の複合語
「名詞+名詞」の形をとっている複合語には、特殊な意味に変化しているものがあるそうです。
1 魚釣り → 魚を釣る。
2 値上げ → 値を上げる。
3 箸置き → 箸を置くための小物。
4 人助け → 人を助ける。
1、2、4は、前項が後項動作の対象となっています。
しかし3は「箸を置く」という意味ではなく、箸を置くときに箸が転がったり、箸の先端が他のところに接触するのを防ぐために使用されるものを指します。物置き、小物入れなども同じように、特殊な意味に変化している複合語です。
したがって答えは3です。
(8)造語法
「サボる」は、フランス語の「サボタージュ(sabotage)」を略した「サボ」を動詞化した語です。省略した後に接尾辞「る」を付加することで作られています。これが「サボる」の造語法です。
1 「メモ」に「る」をつけた語。
2 「デコレーション」を略した「デコ」に「る」をつけた語。
3 「ハーモニー」を略した「ハモ」に「る」をつけた語。
4 「ネグレクト」を略した「ネグ」に「る」をつけた語。
2~4は省略した後に接尾辞「る」を付加する方法です。しかし1は省略せずにそのまま接尾辞「る」を付加する方法です。
したがって答えは1です。
(9)連濁
連濁とは、ゴミ箱、神棚、夜桜みたいに、後部要素の語頭子音が濁音化する変音現象のことです。連濁を阻害する要因はだいたい以下の3つ。詳しくは下のリンクに書いています。
漢語や外来語の場合は起きにくい
前部要素と後部要素が意味的に並列関係である場合は起きにくい
複合語の後部要素にもとから濁音が含まれている場合は起きにくい
選択肢1
「ゴミ箱」は連濁するのに、「スマホカバー」みたいな外来語って連濁しないです。
選択肢2
外来語は連濁することもあります。例えば「雨合羽」とか。「合羽」は元々ポルトガル語なんですけど、もう十分日本語として定着している語なので連濁します。
それから、「夫婦喧嘩」とか「株式会社」とかは漢語なのに連濁してます。こういう例外もあります。
選択肢3
その通り!
後部要素の語頭の無声子音が母音(有声音)に挟まれた時に、隣りの音に同化するために連濁します。
選択肢4
連濁にはその複合語を一つの語として聞こえやすくする効果があります。正しいです。
したがって答えは2です。
(10)ライマンの法則
ライマンの法則とは、複合語の後部要素にもとから濁音が含まれている場合、連濁は起きにくいという法則のことです。連濁の話をするときは絶対出てくる用語なので覚えてください!
1 鳩時計
後部要素「時計(とけい)」には濁音が含まれていませんので、ライマンの法則とは関係ありません。
2 口癖
後部要素「癖(くせ)」には濁音が含まれていませんので、ライマンの法則とは関係ありません。
3 帰り支度
後部要素「支度(したく)」には濁音が含まれていませんので、ライマンの法則とは関係ありません。
4 縄梯子
後部要素「梯子(はしご)」には濁音が含まれていますので、ライマンの法則によると連濁は発生しないはずです。
しかし実際は「なわばしご」になり連濁が発生しています。これがライマンの法則の例外です。
したがって答えは4です。
(11)連濁しにくい状況
(9)でまとめた通り、前部要素と後部要素が意味的に並列関係だったら連濁は起きにくくなります。
選択肢1
「山」と「川」は複合語を作ると、「山川(やまかわ)」となり連濁は発生していません。「読み書き」「飲み食い」「好き嫌い」も同じです。
上述したように、前部要素と後部要素が並列の関係のとき連濁は発生しにくくなります。
選択肢2
「白髪染め」は「白髪を染める」のように、前項が後項動作の目的語となっています。
このケースは連濁する場合が多いようです。
選択肢3
「足踏み」は「足で踏む」のように、前項が後項動作の手段を表しています。
このケースは連濁する場合が多いようです。
選択肢4
「殴り書き」「羽交い締め」は前項が後項の様態を表していますが、連濁が生じています。
したがって答えは1です。
ディスカッション
コメント一覧
(9)連濁についてですが、「水玉、株式会社、夫婦喧嘩、雨合羽、縄梯子のように例外がいくつか存在するため、連濁が発生する条件について完璧に説明できる法則は見つかっていません。」の部分について、理解が及ばないのでご教示頂ければありがたく存じます。
1)水玉(みずたま)mizu-Tama : TがDになるべきだが、なっていない。←連濁ルールに対する例外。(理解でる)<複合語の後部にもともと濁音がない>
2)株式会社(かぶしきがいしゃ)kabushiki-Gaisha: kabushiki-KaishaのKがgになっている。←連濁のルール通り(例外ではない?理解できない) <複合語の後部にもとは濁音がない>
3)夫婦喧嘩(ふうふげんか)fuufu-Genka:fuufu-KenkaのKがGになっている。←連濁のルール通り(例外ではない?理解できない)<複合語の後部にもとは濁音がない>
4)雨合羽(あまがっぱ)ama-Gappa: Ama-KappaのKがGになっている。←ライマンの法則に対する例外(理解できる)<複合語の後部にもとから濁音が含まれている>
5)縄梯子(なわばしご)nawa-Bashigo:
naba-HashiGoのHがBになっている。Goがあるのに、HがBになっている。←ライマンの法則に対する例外(理解できる)<複合語の後部にもとから濁音が含まれている>
2,3,4)がどのような形式の例外なのか、教えて頂ければ助かります。よろしくお願い致します。
>石川さん
返信遅れました。質問にお答えします。
まず、連濁を阻害する要因の一つとして、「漢語と外来語には起こりにくい」という特徴があります。
株式会社と夫婦喧嘩は漢語ですから、このルールに基づくと「かぶしきかいしゃ」「ふうふけんか」となるはずですが、実際は「がいしゃ」「げんか」と連濁が生じています。そのため、例外として記述しました。
雨合羽の「合羽(かっぱ)」も元々外来語で、本来は連濁しないはずですが、ここでは例外です。外来語でも十分に日本語として定着したものは連濁が生じることもあります。
なるほど、「漢語と外来語には起こりにくい」ということに対する例外なんですね。ありがとうございました。もっとも私は、株式会社と夫婦喧嘩が漢語であることも、合羽が外来語であることも知りませんでしたが・・・。勉強になりました。
その他をネットでググると、
・二つの語が反意語の場合は連濁しない
・付属的な意味の接頭辞が前につくときは連濁しない
・オノマトペ(畳語を除く)の場合は連濁しない
などがある?みたいです。
日本語を教える際に、沢山例外がある連濁の法則を持ち出すと、
学生さんに余計な混乱を招きそうですね。
(8)は、memorandumを略して動詞化したものだと思っていました。
違うのですか?
>匿名さん
ご指摘ありがとうございます。私は英語に弱いので詳しいところよくわかりません…
「memorandum」の頭文字を省略して「る」を付けたとなるとほかの選択肢と同じということになりますね。これが正しいとすれば選択肢1を選ぶための他の解き方があるということでしょうか。
違う見方等ありましたら共有いただければと思います!
(8)は、memorandumを略して動詞化したものだと思っていました。
違うのですか?
↑
英語学習者ですが、私も同じこと思いました。
memorandumの省略がmemo
ハーモニー→ハモる は ハ/ー/モ の「ー」を飛ばしてるから仲間はずれかと思い答えに選びました。
また、何か理由がわかったら教えてください。
>kukiさん
選択肢2、3、4ははじめ英語から輸入する段階が「デコレーション」「ハーモニー」「ネグレクト」で、そこから省略が行われたというプロセスかもしれないですね。
一方「memorandum」はメモランダムを経由せずに直接「メモ」で輸入されたとか…
いかがでしょうか。
なるほどです!
輸入された後、日本に定着している単語で考えたらよいということですね。
他の知識や考えすぎが正解の邪魔をしてくるということも勉強になりました。
納得いきました。ありがとうございます。