平成28年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ 問題3C解説
平成28年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ 問題3C
C【日本語の音変化】
(11)日本語の子音の対立
日本語の子音は有声/無声の対立があります。調音点と調音法が同じでも、声帯振動が伴っているかどうかによって異なる音として認識されます。
[ɕ]:[ʑ] (し:じ)
[p]:[b] (ぱぴぷぺぽ:ばびぶべぼ)
[t]:[d] (たてと:だでど)
[s]:[z] (さすせそ:ざずぜぞ)
[k]:[g] (かきくけこ:がぎぐげご)
[tɕ]:[dʑ] (ち:ぢ)
中国語や朝鮮語などでは、有気音と無気音が弁別的な対立をなしています。
さらに、朝鮮語では「平音」「激音」「濃音」があります。
平音とは、韓国・朝鮮語における無気音のこと。
激音とは、韓国・朝鮮語における有気音のこと。
濃音とは、韓国・朝鮮語において、息を吐かずにする発音のこと。
直音とは、一つの母音または一子音と一母音からなるもののこと。促音・撥音を除き、五十音及び濁音、半濁音のことを指す。通常仮名一字で表され、単独で1モーラ(1拍)を形成する。拗音の対となるもの。
したがって答えは1です。
(12)異音
異音とは、同じ音素の中に属している個々の異なる音のこと。例えば、日本語における音素/s/には[s][θ]が含まれるが、これら[s]と[θ]は/s/の異音となる。その他、[ɾ][r][l]は/r/の異音、[g][ŋ]は/g/の異音である。
自由異音とは、現れる条件が決まっていない異音のこと。例えば、「映画」は[eiga]でも[eiŋa]でもよく、音素/g/の異音[g]と[ŋ]は規則性なくランダムに現れるため、[g]と[ŋ]は音素/g/の自由異音といえる。
1 直後の音によって変化する促音
促音は後続する音の子音が「k」「t」「p」のとき、後続する音の調音点で閉鎖を作り、無音状態にして一拍を形成します。「s」のときは後続する音の調音点で摩擦音を出して一拍を形成します。促音の異音は現れる条件がこのように決まっているので条件異音です。
後続する音 | 促音の異音 |
---|---|
か、き、く、け、こ | 軟口蓋で閉鎖 |
た、つ、て、と | 歯茎で閉鎖 |
ち | 歯茎硬口蓋で閉鎖 |
ぱ、ぴ、ぷ、ぺ、ぽ | 両唇で閉鎖 |
さ、す、せ、そ | 歯茎を調音点とした摩擦音 |
し | 歯茎硬口蓋を調音点とした摩擦音 |
2 直前の音によって変化する長音
「長音の異音」は検索しても見付けられなかったので推測で書きます。
おそらく長音の異音は、直前の音の母音によって決まるものと思われます。母音は舌の高さ(口の開きが大きいか小さいか)、舌の前後位置、唇の丸めの有無の3つの要素によって音色が決定します。
直前の音が「あ」なら、「あ」の口の状態を維持したまま長音が発音されます。これが長音の異音ではないかと思います。日本語の母音は[a][i][ɯ][e][o]の5種類ありますので、長音の異音も5種類あるはずです。
ですから長音は条件異音です。
3 直後の音によって変化する撥音
撥音の異音は後続する音によって決まり、大きく分けて3種類あります。ですから撥音は条件異音です。
①「ん」の後続音が無い時は、[ɴ]有声硬口蓋鼻音で発音する。
②「あさわはや行」の音が後続する時は、鼻母音で発音する。
③その他の時は、後続する音の調音点とした有声鼻音で発音する。
4 語中で鼻音化するガ行の子音
日本語の「がぎぐげご」には[ɡ]と[ŋ]の異音があります。「がぎぐげご」は語中では原則鼻音化されて発音されますが、複合語はしたりしなかったり、音節の繰り返しは鼻音化しなかったりです。また外来語の場合は十分日本語として定着していればしますが、定着していなければ鼻音化しません。つまり、異音が現れる条件が決まっていない自由異音です。
(1) かがみ (鼻音化)
(2) 昼ご飯 (鼻音化しない)
(3) ぐるぐる (鼻音化しない)
(4) キログラム (鼻音化しない)
(5) イギリス (鼻音化する)
したがって答えは4です。
(13)母音の無声化
母音の無声化は2種類の状況下で起こります。
①母音「i」「u」が無声子音に挟まれたとき
②無声子音に「i」「u」がついた音が語末あるいは文末に来たとき
(無声子音は「k」「s」「t」「h」「p」)
選択肢をローマ字に直して一つひとつ見ていきます。
1 nami
「n」と「m」は有声子音です。
無声子音が含まれていないので母音の無声化は起きません。
2 mori
「m」と「r」は有声子音です。
無声子音が含まれていないので母音の無声化は起きません。
3 yoru
「y」と「r」は有声子音です。
無声子音が含まれていないので母音の無声化は起きません。
4 sita
「s」と「t」は無声子音です。
母音「i」が無声子音に挟まれていますので、「し」は無声化して発音されやすくなります。
参考:【第72回】母音の無声化で「です/ます」を綺麗に発音する
したがって答えは4です。
(14)連声
連声(れんじょう)とは、前部要素の語末子音が[m][n][t]で、かつ後部要素の語頭が母音・ヤ行・ワ行で始まる語が来るとき、後部要素の語頭がマ行・ナ行・タ行音に変化する日本語の変音現象。つまり、前部要素の末尾子音が後部要素の語頭に影響して繰り返される。漢語の熟語によく見られる。
1 舟歌
「酒(さけ)+屋(や)=酒屋(さかや)」のように、前項末尾の母音が別の母音に変化するのは転音(母音交替)です。
2 観音
前項末尾は「n」で、後項語頭は母音「o」
後項語頭は前項末尾「n」の影響を受けて「no」に変わっています。これは連声です。
3 国旗
促音に変わる現象は促音便だと思われます。しかし促音便とはイ段の音が促音に変化する音便のことだったはずです。「こく+き」の「く」はイ段ではありませんので、本当に促音便なんでしょうか。この点は不明です。
(6) 取る - とりて - とって (促音便)
(7) 待つ - まちて - まって (促音便)
(8) 会う - あいて - あって (促音便)
4 小雨
「koame」に「s」が付け加えられて「kosame」になっています。このように元々の語にはなかった音が付け加わる現象を音韻添加といいます。
したがって答えは2です。
(15)動詞のテ形における音便
音便とは、単語中の一音が別の音に変化する音韻的な変化のこと。変化後の音が「イ」になるものをイ音便、「ウ」になるものをウ音便、「ン」になるものを撥音便、「ッ」になるものを「促音便」と呼ぶ。
動て形の時に生じる音便は、イ音便、撥音便、促音便の3種類です。
①「キ」「ギ」が「イ」に変わるものはイ音便
②「ン」音に変化するものは撥音便
③イ段の音が促音に変化するものは促音便
(9) 書く - かきて - かいて (イ音便)
(10) 脱ぐ - ぬぎて - ぬいで (イ音便)
(11) 飲む - のみて - のんで (撥音便)
(12) 遊ぶ - あそびて - あそんで (撥音便)
(13) 死ぬ - しにて - しんで (撥音便)
(14) 取る - とりて - とって (促音便)
(15) 待つ - まちて - まって (促音便)
(16) 会う - あいて - あって (促音便)
1 動詞語幹末尾が弾き音の場合、イ音便
弾き音[ɾ]とは、「らりるれろ」のことです。
「切る」の動詞語幹は「kir」で、末尾は弾き音。て形は「切って」になりますので、これはイ音便ではなく促音便です。
(切る - きりて - きって)
2 動詞語幹末尾が破擦音の場合、ウ音便
破擦音とは、「つちじ(ざずぜぞ)」のことです。
「勝つ」の動詞語幹は「kat」で、末尾は破擦音。て形は「勝って」になりますので、ウ音便ではなく促音便です。
(勝つ - かちて - かって)
3 動詞語幹末尾が両唇音の場合、撥音便
両唇音とは、「ふばびぶべぼぱぴぷぺぽ」のことです。
「噛む」の動詞語幹は「kam」で、末尾は両唇音。て形は「噛んで」になりますので、撥音便です。
(噛む - かみて - かんで)
4 動詞語幹末尾が摩擦音の場合、促音便
摩擦音とは、「さしすせそはひふへほ」等のことです。
「貸す」の動詞語幹は「kas」で、末尾は摩擦音。て形は「貸して」になります。(貸す - かして)
「~す」で終わる動詞のて形は音便化が生じません。
したがって答えは3です。