2019年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ 問題10解説

問1 談話能力

 カナル&スウェイン (M.Canale & M.Swain)といえば、コミュニケーション能力/コミュニカティブ・コンピテンス (communicative competence)です。これはコミュニケーションを行うための能力のことで、以下の4つに分けられます。

談話能力 言語を理解し、構成する能力。会話の始め方、その順序、終わり方などのこと。
方略能力
(ストラテジー能力)
コミュニケーションを円滑に行うための能力。相手の言ったことが分からなかったとき、自分の言ったことがうまく伝わらなかったときの対応の仕方のことで、ジェスチャー、言い換えなどがあてはまる。
社会言語能力
(社会言語学的能力)
場面や状況に応じて適切な表現を使用できる能力。
文法能力 語、文法、音声、表記などを正確に使用できる能力。

 1 目上を「すごい」等と評価するのは不適切です。場面に応じて適切な表現を使用できているとは言えませんので、社会言語能力が欠如しています。
 2 目上に「~たいですか」は不適切です。場面に応じて適切な表現を使用できているとは言えませんので、社会言語能力が欠如しています。
 3 「面白いでした」にはイ形容詞の活用に誤りが見られます。文法能力が欠如しています。
 4 天気の話題から論文の話題へと突然移り変わっています。談話を構成する談話能力が欠如しています。

 したがって答えは4です。

 

問2 談話標識

 談話標識/ディスコースマーカー (discourse marker)とは、談話において、その後どう続くかを知る手がかりとなる言葉のこと。例えば、「でも」は反論、「ところで」は話題転換、「すみません」は会話の切り出しの合図となる。

 選択肢2の「では」はディスコースマーカーです。やり取りの最後の「では」は、その後に「失礼します」「そういうことで」などの談話を終わらせたり、まとめたりする内容が来るため、それ自体で談話の方向性を決めることができます。

 したがって答えは2です。

 

問3 スクリプトを考慮したモデル会話

 スキーマと併せて覚えておきたいのは、フレームとスクリプトです。

スキーマ (schema) 具体的な特徴を取り除いた、抽象的な知識構造のこと。その話題に関して既に持っている知識のこと。
フレーム (frame) ある概念を理解するために必要な前提となる知識構造のこと。例えば、「帰省ラッシュ」という言葉は「多くの人がお盆や年末などに故郷へ帰省する」という背景知識があってようやく理解することができ、物事を理解するための前提となっている。
スクリプト (script) 一連のスキーマの流れのこと。例えば、「レストランでは、入店して、席に座り、注文して、食べて、会計し、退店する」のような一連の手続き的な知識を指す。

 スクリプトは過去に1度だけ「平成25年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ 問題11 問1」で出題されたことがあります。

 選択肢4の「出来事の典型的な順序や流れ」の部分がスクリプトの記述です。
 したがって答えは4です。

 

問4 トップダウン的な会話活動

 言語処理はトップダウンとボトムアップの2つに分けられます。

 トップダウン処理 (top-down processing)とは、既に持っている背景知識や文脈、タイトル、挿絵、表情などから推測しながら理解を進めていく言語処理方法のこと。

 ボトムアップ処理 (bottom-up processing)とは、単語や音、文法などの言語知識を用いて、細かい部分から徐々に理解を進めていく言語処理方法のこと。

 1 語や定型表現を直接教えるのはボトムアップ的な指導です。
 2 文型を直接導入するのはボトムアップ的な指導です。
 3 映像から推測して状況を把握させるのはトップダウン的な指導です。
 4 発音練習はボトムアップ的な指導です。

 したがって答えは3です。

 

問5 語用論的転移

 1 過剰般化の例
 過剰般化/過剰一般化 (stereotype induced error)とは、文法的な規則を他のところにも過剰に適用することによって起きる言語内エラーの一種。例えば「安くはありません」を「安いではありません」と言うのは、ナ形容詞の規則をイ形容詞に適当したために生じていると考えられる。
 
 2 コミュニケーション・ストラテジーの言い換え
 言い換えとは、自分の言語能力が不足しているときのコミュニケーションを達成するために学習者が用いるコミュニケーション・ストラテジーのうち、知らない語を、それに似た別の語で表現したり、新しく語を作ったりして説明すること。

 3 語用論的転移の例
 プラグマティック・トランスファー/語用論的転移 (pragmatic transfer)とは、エラーのうち、母語による影響で生じた文法的な誤りのない語用論的誤りのこと。例えば、英語母語話者が友人を夕食に誘う際に、英語の「Would you like to go to dinner?」をそのまま直訳して「夕食行きたいですか?」という表現を用いることなどが挙げられる。特定の場面でどのような語や表現を用いるべきかは、その言語を使用するコミュニティの社会的な習慣として決められ、制約を受けている。

 4 不明

 
 したがって答えは3です。

 





2019年度, 日本語教育能力検定試験 解説