2019年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ 問題9解説

問1 プロトタイプと非プロトタイプ

 プロトタイプ (prototype)とは、ある言語共同体で共有される意味構造の典型のこと。基本動詞などの語の多くは多義性が高く、意味構造における語義の拡張が見られる。例えば、「髪を切る」の「切る」は本来物を鋭利な物で切断することを表す。しかし、「水気を切る」は水気が無くなるように振ったり絞ったりすることを、「カードを切る」はカードを混ぜることを表すことができる。この時の最も典型的な用法である「髪を切る」の「切る」がプロトタイプにあたる。それ以外の用法はその意味が構造上プロトタイプ的意味から離れているため、非プロトタイプを呼ばれる。プロトタイプとその語義の拡張の度合いには以下のような階層がある。0がプロトタイプ的な使い方で、数字が大きくなればなるほど意味がプロトタイプから離れている。

階層 用法 意味
髪を切る
封を切る 切開
胃を切る 切除
縁を切る 中断
風を切る 横断
敵を切る 殺傷
水気を切る 切捨
世相を切る 断罪
領収書を切る 発行
10 トランプを切る 混合
11 10秒を切る 減少
12 ハンドルを切る 断行

 引用元:『鐘慧盈 テコラス』-「きる」の意味構造がその習得に及ぼす影響

 「落とす」のプロトタイプ的な用法は「人が物が落下させる」です。

 1 洗浄
 2 喪失
 3 落下
 4 下落

 したがって答えは3です。

 

問2 メンタル・レキシコン(心的辞書)

 メンタル・レキシコン (Mental lexicon)とは、膨大な語彙とその一つ一つの語についての意味に加え、それらの語と語の関係性や運用規則など、言語化することができない豊富な暗黙の知識を包含する心の辞書のこと。心理学及び言語学の用語。

 1 正しいと思います。創造的構築仮説に近い考え方です。
 2 産出される表現が人によって異なるように、語がどのように格納されているかは人によって違うはずです。
 3 成人日本語母語話者の理解語彙は4.5万程度、使用語彙は1万~2万語程度と言われています。
 4 中間言語可変性が認められることから見ても、情報の改定はその都度行われるはずです。

 したがって答えは1です。

 (メンタル・レキシコンは23年度以降初めて出題された用語です。)

 

問3 コロケーション

 1 直示/直示表現/ダイクシス (deixis)
 発話現場にいなければ意味が成立しない言葉の性質のこと。例えば「これは美味しい」と言う時、その場にいる人は「それ」が何を指しているか理解できるものの、その場にいなければ「それ」が何なのかを特定することはできない。時間の直示、場所の直示、人称の直示、談話の直示、社会的直示の5つに分類される。
 参考:談話と会話分析について - 直示/直示表現/ダイクシス (deixis)

 2 コロケーション (collocation)
 語と語の自然な組み合わせのこと。例えば、「辞書」に対しては、「使う」「見る」よりも「引く」「調べる」のほうが語と語の結びつきが強く、共起しやすい。
 「(ハンガーに)服を」に対しては「かける」が共起します。「付けて」というのは、コロケーションに関する知識が欠如しているために生じている誤りです。

 3 語構成
 語構成については「形態、音素、語構成、語彙まとめ」をご覧ください。

 4 転成
 造語法の一つで、既存の語の品詞を変えて新しい語を作る方法。暮らし、物語、話など。

 したがって答えは2です。

 

問4 キーワード法

 キーワード法とは、目標言語の覚えたい語と音韻的に類似した母語の言葉のイメージと結びつけ、その関連性によって語とその意味を記憶する方法のこと。

 したがって答えは1です。

 (キーワード法は23年度以降初めて出題された用語です。)

 

問5 新出語の扱い方

 認知的な負担への考慮

 1 正しいです。内容理解に重要で推測が難しい語を事前に指導しなければ、読解中の認知的負荷が大きくなります。
 2 正しいです。内容理解に重要だが推測しやすい語は読解中に頭を悩ますポイントになりにくく、認知的負荷はそもそも低いです。
 3 正しいです。内容理解に重要でなく覚える必要もない語をわざわざ指導すると、認知的負荷は大きくなります。
 4 誤りです。覚えるべき語だとしても、その読解の内容理解に重要でない語を事前に指導するのは読解に役に立ちにくいため、認知的負荷が大きくなります。

 したがって答えは4です。





2019年度, 日本語教育能力検定試験 解説