日本語のフットについて

 日本語は常に拍(モーラ)が時間的に等間隔で繰り返されるモーラリズムの言語で、長音、促音、撥音などの特殊拍も他の仮名一文字と同じく1拍を形成します。この拍(モーラ)と関連したものにフットがあります。例えば「鋼の心臓」は「はが/ねの/しん/ぞう」と、2拍で1つの単位となって読まれ、言い換えると、日本語の1拍(1音)は八分音符一つに相当することになります。このまとまりを表す単位がフットです。日本語では一部の例外を除き、全てこの韻律によって拍節的な音律を形成します。
 フットは通常意識されることはありませんが、日本語の様々な場面で多く出現しています。

 

日本語のフットについて

同種の物を列挙するときはフットを形成しやすい

 月曜日から日曜日までを読み上げる場合を考えてみます。本来「火」「土」はそれぞれ「か」「ど」で1拍ですが、実際に読み上げられる場合は「かー」「どー」のように1拍の音が2拍分に引き伸ばされます。他の2拍の曜日に合わせて引き伸ばすことで全体のフットを整え、規則的なリズムを刻めるようになります。

本来の読み げつ すい もく きん にち
全体としての読み げつ すい もく きん にち

 曜日だけでなく、数字全般もそうです。1~10まで読み上げる場合は元々1拍の「2」「4」「5」は2拍に引き伸ばされます。

10
本来の読み いち さん よん
ろく なな はち きゅう じゅう
全体としての読み いち にー さん よん
しー
ごー ろく なな はち きゅう じゅう

 その他、「二・二六事件」は「にーにーろくじけん」、「五・一五事件」は「ごーいちごーじけん」、円周率の「3.141592…」、住所の番地等もフットが整えられて読み上げられます。

 また、同種の物を列挙するときの最たる例として、お題に沿うものを手拍子2回を挟んで参加者で言い合う山手線ゲームがあります。お題「国名」の場合を考えてみます。

回答時間 手拍子の時間
1フット 1フット 1フット 1フット
1拍 1拍 1拍 1拍 1拍 1拍 1拍 1拍
ミャ
アル ゼン チン
エル サル バド ル■
リヒ テン シュタ イン

 ※ここでは手拍子(1拍)を「✕」、1拍分のタイムを「◯」、0.5拍分のタイムを「■」として表記しています。

 日本語は2拍1フットを形成しやすいように、山手線ゲームにおける2回の手拍子も4拍2フットに相当します。これに影響を受け、全体のリズムを整えるために回答時間も4拍2フットとなり、1人には合計8拍4フットというターンが与えられています。

 しかし回答は4拍しかないため、「チリ」や「日本」のように4拍に満たない言葉は、長音やタイムが挿入されたりして無理やり4拍分に引き伸ばされてしまいます。「アメリカ」「ミャンマー」のような元々4拍のものはそのままです。「アルゼンチン」は元々6拍ですが、これを無理やり4拍に縮めるために「アル」「ゼン」「チン」がそれぞれ早口で発され1拍となります。「エルサルバドル」のような7拍のものは、早口になりつつ、最後の「ル」の後に0.5拍のタイムが挿入されて4拍に収まるように調整されます。8拍の「リヒテンシュタイン」は、2音が1拍となってちょうど4拍になります。そして、「トリニダードトバゴ」や「中華人民共和国」のような8拍を超えるものは、上記の表に書き表せないほど無理やり詰め込まれて4拍になります。

 

略語もフットを形成する場合がある

 ポケモン、エアコン、コンビニ、筋トレ、就活など、元々の語を省略して言う場合は2フットになることがあります。ただし、スマホ、路駐、カンペ、コミケなどの例外もあるため、必ずそうなるとは言えません。

 

1拍の語は2拍に引き伸ばされることがある

1拍+助詞 読み 1拍(助詞なし) 読み
目を見て話せ めをみてはなせ 目見て話せ めーみてはなせ
胃が痛い いがいたい 胃痛い いーいたい
手を切った てをきった 手切った てーきった
蚊が居た かがいた 蚊居た かーいた
歯が抜けた はがぬけた 歯抜けた はーぬけた
絵を描いてる えをかいてる 絵描いてる えーかいてる

 日本語には助詞があるので、1拍の語も助詞と一緒に用いれば2拍1フットを形成することができます。しかし、ガ格やヲ格などの強い格は口語において省略されやすく、1拍の語は単独で取り残されてしまいます。その場合は1拍の語が長音で2拍に引き伸ばされることによってリズムが整えられます。

 

俳句、キャッチコピーなどにもフットが取り入れられている

 多くの言葉はフットを形成してリズムを刻んでいます。全体のフットを整えることリズムも良くなり、耳にも残りやすくなるため、キャッチコピーやフレーズなどにも多用されます。

2フット 2フット 2フット 2フット
2拍 2拍 2拍 2拍 2拍 2拍 2拍 2拍
いろ はに ほへ と◯ ちり ぬる を◯ ◯◯
あな たと コン ビニ ファミ リー マー ト◯
◯か みみ あり しょう めあ り◯
◯か てん まわ りも の◯ ◯◯

 「壁に耳あり障子に目あり」や「金は天下の回り物」のように、先頭に1拍のタイムを置くようなケースもあります。先頭に1拍のタイムを置かなければ「かべ/にみ/みあ/りしょ/うじ/にめ/あり」となってしまい、言葉の切れ目とフットの切れ目が一致しなくなることでかえってリズムが悪くなってしまうためです。1フットを構成する2拍のうち、後部の拍に助詞を置いたほうがリズムが良くなるのも関係しています。

 また「金は天下の回り物」などは後ろに3拍分のタイムが置かれることがあります。この3拍のタイムによって全体が8フットとなりリズムが良くなります。1拍は八分音符に相当するため、16拍は音楽でいうちょうど2小節。逆に言えば、2小節に整えようとして3拍分のタイムが挿入されていると考えられます。

2フット 2フット 2フット 2フット 2フット 2フット
ふる いけ や◯ ◯◯ ◯か わず とび こむ みず のお と◯ ◯◯
なつ くさ や◯ ◯◯ ◯つ わも のど もが ゆめ のあ と◯ ◯◯
まつ しま や◯ ◯◯ ああ まつ しま や◯ まつ しま や◯ ◯◯

 俳句の場合は、全体で12フットに整えられます。

 

フットについてのまとめ

 学生にためしに「月火水木金土日」と読ませてみたところ、日本人ほど「かー」「どー」と2拍に引き伸ばすことは少なかったです。リズムを整えると聞きやすくなり、本当の日本語っぽく聞こえてきます。特殊拍の導入で拍(モーラ)を意識させることも大切ですが、フットは日常会話などの流暢さにも直結する要素です。初級はともかく、上級やスピーチなどでは自然と使えるようになりたいところです。

 







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