日本語の変音現象について

 
 

連濁(れんだく) ★★★

 連濁とは、複合語で後部要素の語頭子音が濁音化する現象です。後部要素の語頭の無声子音が母音(有声音)に挟まれた時に、隣りの音に同化するために連濁します。

(1) 手紙 te + [k]ami → te[g]ami
(2) 夕暮れ yuu + [k]ure → yuu[g]ure
(3) 時々 toki + [t]oki → toki[d]oki

 濁音化することによってその複合語を一つの語として聞こえやすくする効果があります。ただし、「水玉(mizutama)」などに見られるように連濁は必ず起きるとは限らず、連濁が発生する条件について完璧に説明できる法則は見つかっていません。

 連濁を阻害する要因として、以下の場合が挙げられます。

 

漢語や外来語の場合は起きにくい

 日本語における変音現象なので特に和語に起きやすく、漢語や外来語では極めて稀です。

(4) 悪癖 aku + [h]eki → aku[h]eki
(5) 完全勝利 kanzen + [s]youri → kanzen[s]youri
(6) リモコン rimo + [k]on → rimo[k]on

 例文(4)(5)は漢語、(6)は外来語なので連濁は生じません。ただし、十分に日本語として定着している漢語や外来語は連濁する傾向があります。 

(7) 株式会社 kabusiki + [k]aisya → kabusiki[g]aisya
(8) 夫婦喧嘩 huuhu + [k]enka → huuhu[g]enka
(9) 雨合羽 ama + [k]appa → ama[g]appa

 

前部要素と後部要素が意味的に並列関係である場合は起きにくい

 前部要素と後部要素に修飾関係がなく、両者が意味的に並列関係である場合は通常連濁が起きにくいです。

(7) 白黒 siro + [k]uro → siro[k]uro
(8) 草木 kusa + [k]i → kusa[k]i
(9) 好き嫌い suki + [k]irai → suki[k]irai

 

複合語の後部要素にもとから濁音が含まれている場合は起きにくい

 複合語の後部要素にもとから濁音が含まれている場合、連濁は起きにくいです。これをライマンの法則と呼びます。例えば「はる+かぜ」のように後部要素に濁音が含まれているときは「はるがぜ」とはならず、「はるかぜ」のままです。

(10) 春風 haru + [k]aze → haru[k]aze
(11) 晴れ姿 hare + [s]ugata → hare[s]ugata
(12) 土壁 tuti + [k]abe → tuti[k]abe

 ただし、ライマンの法則には「縄梯子」等の例外があります。

 
 

連声(れんじょう) ★★★

 連声とは、前部要素の語末子音が[m][n][t]で、かつ後部要素の語頭が母音・ヤ行・ワ行で始まる語が来るとき、後部要素の語頭がマ行・ナ行・タ行音に変化する日本語の変音現象です。つまり、前部要素の末尾子音が後部要素の語頭に影響して繰り返されます。この現象は漢語の熟語によく見られます。ただし、「原因」は例外です。

(13) 観音 kan + on → kan[n]on
(14) 因縁 in + en → in[n]en
(15) 天皇 ten + ou → ten[n]ou
(16) 銀杏 gin + an → gin[n]an
(17) 反応 han + ou → han[n]ou
(18) 三位 san + i → san[m]i
(19) 云々 un + un → un[n]un

 
 

音便/音便化 ★★★

 音便化とは、単語中の一音が別の音に変化する音韻的な変化のことです。変化後の音が「イ」になるものをイ音便、「ウ」になるものをウ音便、「ン」になるものを撥音便、「ッ」になるものを「促音便」と呼びます。

★★☆ イ音便

 「イ」音に変化する音便のことです。例えば、五段動詞の語幹の最後の子音が[k][g]の動詞(基本形の語末が『く』『ぐ』の動詞)は、テ形、タ形を作る場合、「キ」「ギ」が「イ」に変わります。

(20) 書く → かきて → か
(21) 脱ぐ → ぬぎて → ぬ

 

★★☆ ウ音便

 「ウ」音に変化する音便のことです。

(22) 若人 わかびと → わかうど → わこ
(23) 日向 ひむか → ひうが → ひゅ

 

★★☆ 撥音便

 「ン」音に変化する音便のことです。例えば、五段動詞の語幹の最後の子音が[n][m][b]の動詞(基本形の語末が『ぬ』『む』『ぶ』の動詞)は、テ形、タ形を作る場合、「ニ」「ミ」「ビ」が「ン」に変わります。撥音便は語末には立たず、必ず後続音を必要とします。

(24) 死ぬ → しにて → し
(25) 飲む → のみて → の
(26) 遊ぶ → あそびて → あそ

 

★★☆ 促音便

 イ段の音が促音に変化する音便のことです。例えば、五段動詞の語幹の子音が[t][r][w]の動詞(基本形の語末が『う』『つ』『る』の動詞)は、テ形、タ形を作る場合、「イ」「チ」「リ」が「ッ」に変わります。促音に代わる性質上、促音便は語末には立たず、必ず後続音を必要とします。

(27) 買う → かいて → か
(28) 勝つ → かちて → か
(29) 貼る → かりて → は

 
 

転音/母音交替 ★☆☆ 

 転音とは、前部要素の語末母音が別の母音に変化する変音現象のことです。

(30) 雨傘 am[e] + kasa → am[a]gasa
(31) 風上 kaz[e] + kami → kaz[a]kami
(33) 木陰 k[i] + kage → k[o]kage

 
 

音韻添加 ★☆☆ 

 前部要素と後部要素の間に元々の語にはなかった音素が付け加えられる変音現象のことです。

(34) 小雨 ko + ame → ko[s]ame
(35) 春雨 haru + ame → haru[s]ame
(36) 真っ青 ma + ao → ma[ss]ao
(37) 真ん中 ma + naka → ma[n]naka

 
 

音韻脱落 ★☆☆ 

 元々の語にあった音が無くなる変音現象です。

(38) 裸足 hada[ka] + asi → hadasi
(39) 河原 kawa + [ha]ra → kawara
(40) 何で nan[i] + de → nande

 
 

音韻融合 ★☆☆ 

 前部要素の語末と後部要素の語頭の音が融合する変音現象です。

(41) 狩人 かりうど → かりゅう
(42) 私は わたしは → わたしゃ

 
 

音位転換 ★☆☆ 

 音素の順番が入れ替わってしまう変音現象です。

(43) 雰囲気 ふんいき → ふいんき
(44) オタマジャクシ → オジャマタクシ
(45) シミュレーション → シュミレーション

 
 

半濁音化 ★☆☆ 

 ハ行音がパ行音に変化する変音現象のことです。原則として促音の後のハ行音はパ行音になる。

(46) 審判 sin + [h]an → sin[p]an
(47) 一本 iti + [h]on → i[pp]on
(48) 天辺 ten + [h]en → te[pp]en

 
 

促音挿入 ★☆☆ 

 元々の語には無かった促音が挿入される変音現象のこと。強調に用いられることが多い。原則として促音の後のハ行音はパ行音になる(半濁音化)。

(49) 崖っぷち
(50) 追い+払う → 追払う
(51) やはり → やぱり
(52) すごい → すごい
(53) やばい → やばい

 
 

拗音の直音化 ☆☆☆ 

 「しゃ」「しゅ」などの拗音を「さ」「す」と発音する変音現象のことです。出発が「しっぱつ」、手術が「しじゅつ」「しゅじつ」となったりします。

(54) 手術 しゅじゅつ → じゅつ
(55) 新宿 しんじゅく → しん

 
 

長母音の短母音化 ☆☆☆ 

 長母音が短母音になる変音現象のことです。

(56) 本当 ほんとう → ほんと
(57) 学校 がっこう → がっこ

 

ハ行転呼 ☆☆☆ 

 日本語史における大きな音韻変化の一つで、「かは⇒かわ(川)」「かほ ⇒ かお(顔)」「うへ ⇒ うえ(上)」などと、語中・語尾(語頭以外)のハ行音がワ行音に変化した現象のこと。ハ行音は奈良時代以前、両唇破裂音[p]で発音されていたが、それが奈良時代から平安時代後期にかけて両唇摩擦音[ɸ]に変わり、[ɸ]が語中・語尾に現れた場合は軟口蓋接近音[ɰ]で発音されるようになった。江戸時代には「は」「へ」「ほ」は声門摩擦音[h]に、「ひ」は硬口蓋摩擦音[ç]に、「ふ」は両唇摩擦音[ɸ]に定着し、現代に至る。その変化した音をハ行転呼音と呼ぶ。





日本語教育能力検定試験 解説, 用語集