バイリンガルと第二言語習得理論について

目次

 

多言語話者

★☆☆ デカルチュラル (deculturalization)

どの文化にも帰属意識が持てずに、文化的なアイデンティティを失っている状態のこと。

★☆☆ モノリンガル (monolingual)

1つの言語のみを使用する人のこと。一言語話者。

★☆☆ モノカルチュラル (monocultural)

1つの文化や価値観を身につけていること。

★★★ バイリンガル (bilingual)

2つの言語を使用する人のこと。バイリンガルはその習熟度や習得時期、文化習得状況、四技能の熟達度によって様々な種類に分けられる。

分類 名称 説明
言語の習熟度 均衡バイリンガル 2つの言語を母語話者レベルで扱えるタイプ。
偏重バイリンガル 片方の言語のみ母語話者レベルで扱えるタイプ。
限定的バイリンガル
ダブル・リミテッド
セミリンガル
どちらの言語も十分に扱えないタイプ。
言語習得の時期 達成型バイリンガル 子ども時代を過ぎてから第二言語を使用するタイプ。
獲得型バイリンガル 幼児期から第二言語を使用するタイプ。幼児期から二言語に触れることで同時に獲得したタイプを同時バイリンガル、1つ目の言語を習得してから2つ目の言語を習得したタイプを連続バイリンガルと呼ぶ。
文化習得状況 付加的バイリンガル 第二言語習得によって更なる価値観が得られるタイプ。
削減的バイリンガル 第二言語習得によって母語を失ったり、母文化に対するプライドを失ったりするタイプ。
四技能の熟達度 聴解型バイリンガル 一方の言語は「聞く」「話す」「読む」「書く」の四技能全てできるが、もう一方の言語は「聞く」だけできるタイプのこと。
会話型バイリンガル 一方の言語は「聞く」「話す」「読む」「書く」の四技能全てできるが、もう一方の言語は「聞く」と「話す」ができるタイプのこと。
読み書き型バイリンガル
バイリテラル
二言語で「聞く」「話す」「読む」「書く」の四技能ができるタイプのこと。

★☆☆ 均衡バイリンガル (balanced bilingual)

2つの言語を使用するバイリンガルのうち、2つの言語を母語話者レベルで扱えるタイプのこと。

★☆☆ 偏重バイリンガル (dominant bilingual)

2つの言語を使用するバイリンガルのうち、片方の言語のみ母語話者レベルで扱えるタイプのこと。

★★☆ 限定的バイリンガル/ダブル・リミテッド・バイリンガル/セミリンガル (limited bilingual)

2つの言語を使用するバイリンガルのうち、どちらの言語も十分に扱えないタイプのこと。

★☆☆ 達成型バイリンガル

2つの言語を使用するバイリンガルのうち、子ども時代を過ぎてから第二言語を使用するタイプのこと。

★☆☆ 獲得型バイリンガル

2つの言語を使用するバイリンガルのうち、幼児期から第二言語を使用するタイプのこと。獲得型バイリンガルはさらに2つに分けられ、幼児期から二言語に触れることで同時に獲得したタイプを同時バイリンガル、1つ目の言語を習得してから2つ目の言語を習得したタイプを連続バイリンガルと呼ぶ。

★☆☆ 同時バイリンガル

2つの言語を使用するバイリンガルのうち、幼児期から二言語に触れることで同時に獲得したタイプのこと。

★☆☆ 連続バイリンガル

2つの言語を使用するバイリンガルのうち、幼児期に1つ目の言語を習得してから2つ目の言語を習得したタイプのこと。

★☆☆ 付加的バイリンガル/加算的バイリンガリズム (additive bilingualism)

2つの言語を使用するバイリンガルのうち、第二言語習得によって更なる価値観が得られるタイプのこと。

★☆☆ 削減的バイリンガル/減算的バイリンガリズム (subtractive bilingualism)

2つの言語を使用するバイリンガルのうち、第二言語習得によって母語を失ったり、母文化に対するプライドを失ったりするタイプのこと。

★☆☆ 聴解型バイリンガル

2つの言語を使用するバイリンガルのうち、一方の言語は「聞く」「話す」「読む」「書く」の四技能全てできるが、もう一方の言語は「聞く」だけできるタイプのこと。

★☆☆ 会話型バイリンガル

2つの言語を使用するバイリンガルのうち、一方の言語は「聞く」「話す」「読む」「書く」の四技能全てできるが、もう一方の言語は「聞く」と「話す」ができるタイプのこと。

★☆☆ 読み書き型バイリンガル/バイリテラル (biliteral)

2つの言語を使用するバイリンガルのうち、二言語で「聞く」「話す」「読む」「書く」の四技能ができるタイプのこと。

★☆☆ バイカルチュラル/バイカルチャリズム (biculturalism)

2か国の文化や価値観を身につけている人のこと。または、2つの文化が共存している社会のこと。

★☆☆ マルチリンガル (multilingual)

3つ以上の言語を使用する人のこと。

 
 

言語の習得

★★★ 母語/第一言語 (mother tongue/native language)

幼児期に自然に習得する一つないし2つ以上の言語のこと。スクトナブ=カンガスの定義によると、最初に覚え、最も使いこなすことができ、よく使い、自分からも他人からもその言語が母語であると認められる言語のこと。

☆☆☆ 母語の定義

スクトナブ=カンガス (Tove Skutnabb-Kangas)は、起源(習得時期/習得順序)、能力(熟達度)、機能(使用頻度)、アイデンティティの4つの側面から母語の定義を示した。

起源(習得時期/習得順序) 最初に身につけた言語
能力(熟達度) 最も熟知している言語
機能(使用頻度) 最も頻繁に使う言語
アイデンティティ 自分の言語だと自分で認める言語
母語話者だと他人から認められる言語

★★☆ サピア・ウォーフの仮説/言語相対論 (Sapir-Whorf Hypothesis)

サピア (Sapir)とウォーフ (Whorf)によって提唱された、人間の考え方や物事に対する見方はその人の母語の影響を受けているという考え方のこと。「母語が思考・外界認識を決定する」という強い仮説と、「母語が思考・外界認識に影響する」という弱い仮説があり、主張には幅がある。

 
 

第二言語習得理論

★★★ 第二言語 (second language acquisition)

母語を習得した後に、学習して得た母語ではない言語のこと。

★★★ モニターモデル (Monitor Model)

クラッシェン (S.D.Krashen)によって提唱された第二言語習得理論のこと。習得・学習仮説、自然習得順序仮説、モニター仮説、インプット仮説、情意フィルター仮説の5つの仮説から構成される。

①習得・学習仮説 言語を身につける過程には、幼児が母語を無意識に身につけるような「習得」と、学校などで意識的に学んだ結果の「学習」があるとし、学習によって得られた知識は習得された知識には繋がらないとする仮説。このような学習と習得は別物であるという考え方を、ノン・インターフェイスポジションと呼ぶ。
②自然習得順序仮説
自然順序仮説
目標言語の文法規則はある一定の決まった順序で習得されるとする仮説。その自然な順序は教える順序とは関係ないとされている。
③モニター仮説 「学習」した知識は、発話をする際にチェック・修正するモニターとして働くとされる仮説。学習者が言語の規則に焦点を当てているときに起きるとされている。
④インプット仮説 言語習得は理解可能なインプット「i+1」を通して進むとする仮説。ここでいう「i」とは学習者の現時点での言語能力のことで、「+1」がその現在のレベルから少し高いレベルのことを指している。未習のものであっても、文脈から推測できたりする範囲のインプットを与えると、言語構造な自然に習得されるとする。
⑤情意フィルター仮説 学習者の言語に対する自信、不安、態度などの情意面での要因がフィルターを作り、接触するインプットの量と吸収するインプットの量を左右するという仮説。

★★☆ 習得・学習仮説 (The acquisition-learning distinction)

言語を身につける過程には、幼児が母語を無意識に身につけるような「習得」と、学校などで意識的に学んだ結果の「学習」があるとし、学習によって得られた知識は習得された知識には繋がらないとする仮説。モニターモデル (Monitor Model)を構成する仮説の一つ。

★☆☆ 自然習得順序仮説/自然順序仮説 (The natural order hypothesis)

目標言語の文法規則はある一定の決まった順序で習得されるとする仮説。その自然な順序は教える順序とは関係ないとされている。モニターモデル (Monitor Model)を構成する仮説の一つ。

★☆☆ モニター仮説 (The Monitor hypothesis)

「学習」した知識は、発話をする際にチェック・修正するモニターとして働くとされる仮説。学習者が言語の規則に焦点を当てているときに起きるとされている。モニターモデル (Monitor Model)を構成する仮説の一つ。

★★☆ インプット仮説 (The input hypothesis)

言語習得は理解可能なインプット「i+1」を通して進むとする仮説。ここでいう「i」とは学習者の現時点での言語能力のことで、「+1」がその現在のレベルから少し高いレベルのことを指している。未習のものであっても、文脈から推測できたりする範囲のインプットを与えると、言語構造な自然に習得されるとする。モニターモデル (Monitor Model)を構成する仮説の一つ。

★★☆ 情意フィルター仮説 (The Affective Filter hypothesis)

学習者の言語に対する自信、不安、態度などの情意面での要因がフィルターを作り、接触するインプットの量と吸収するインプットの量を左右するという仮説。モニターモデル (Monitor Model)を構成する仮説の一つ。

★☆☆ ノン・インターフェイスポジション

学習と習得は別物であるという考え方のこと。クラッシェン (S.D.Krashen)のモニターモデルの前提となる考え方。

★☆☆ インターフェイス・ポジション/インターフェイス仮説

学習で得た知識は習得に移行するという考え方のこと。クラッシェン (S.D.Krashen)によって提唱されたモニターモデルの考え方とは逆の考え方。

★★★ インターアクション仮説 (Interaction Hypothesis)

ロング (Long)が提唱した第二言語習得に関する仮説。他者との言語を使ったやり取り(インターアクション)をお互いに行い意味交渉することで言語習得が促進されるとする。ここでいう意味交渉は、明確化要求、確認チェック、理解チェックの3種類に分けられる。

明確化要求 相手の発話が曖昧で理解できないときに、発言を明確にするよう要求すること。
確認チェック 相手の発話を自分が正しく理解しているかどうか確認すること。
理解チェック 自分の発話を相手が正しく理解しているかどうか確認すること。

★★☆ 明確化要求

ロング (Long)が提唱したインターアクション仮説の意味交渉のうち、相手の発話が曖昧で理解できないときに、発言を明確にするよう要求すること。

★★☆ 確認チェック

ロング (Long)が提唱したインターアクション仮説の意味交渉のうち、相手の発話を自分が正しく理解しているかどうか確認すること。

★★☆ 理解チェック

ロング (Long)が提唱したインターアクション仮説の意味交渉のうち、自分の発話を相手が正しく理解しているかどうか確認すること。

★★★ アウトプット仮説 (The Output Hypothesis)

スウェイン (M.Swain)によって提唱された、相手が理解可能なアウトプットをすることで言語習得が促されるとする理論。自分が言えることと言えないことの差に気付くことで、言えないことを言えるようになろうとすることが言語習得に繋がるとされている。

★☆☆ 強要アウトプット/強制アウトプット

発話に誤りがあり、相手から明確化要求などの否定的フィードバックを受けることで、相手に分かるように自分の発話を修正すること。

★☆☆ 閾仮説/敷居仮説

カミンズ (Cummins)によって提唱された、バイリンガルの程度と認知との関係性をまとめた仮説のこと。二言語を年齢相応の母語話者レベルで使用できる均衡バイリンガルの場合は認知上プラスの影響を与え、両言語とも十分なレベルにまで達していない限定的バイリンガルの場合は認知上マイナスの影響を与えるとされる。その中間に位置する、二言語のうち一方のみが年齢相応のレベルまで達している偏重バイリンガルの場合は、モノリンガルと同様、認知上プラスにもマイナスにもならないとされている。

★☆☆ 共有基底言語能力モデル/氷山説 (Common Underlying Proficiency Model)

カミンズ (Cummins)によって提唱された、バイリンガルの言語能力についての仮説。身につけた2つの言語はそれぞれ同じ基底部分を共有しているとする考え方のこと。ここでいう基底部分は主に学習言語能力 (CALP)であると考えられている。

★☆☆ 分離基底言語能力モデル/風船説 (Separate Underlying Proficiency Model)

カミンズ (Cummins)によって提唱された、バイリンガルの言語能力についての仮説。脳内には2つの風船(言語)があり、一方が膨らむと一方が縮んでしまうように、言語も一方が強くなるともう一方は弱くなるとする考え方のこと。

★★★ 中間言語 (interlanguage)

第二言語学習過程における発展途上にある言語体系のこと。母語の影響を受けながらも、徐々に目標言語に近づいていくものとされる。セリンカー (Selinker)が提唱した概念。

★☆☆ 可変性 (variability)

中間言語が徐々に目標言語に近づいていく性質のこと。

★☆☆ インテイク (intake)

インプットのうち、意味理解がなされたもののこと。中間言語に取り入れられ、中間言語の再構築を促す。

★☆☆ 有標性差異仮説 (Markedness Differential Hypothesis)

エックマン (Eckman)によって提唱された、母語と第二言語との間に言語的な特殊な違いがある場合は習得困難となり、単純で一般的なものである場合は習得しやすいとする仮説。特殊なルールを持つより複雑なものを有標、一般的で単純なルールを持つものを無標と呼ぶ。

★☆☆ 有標 (marked)

エックマン (Eckman)の有標性差異仮説における、特殊で複雑な言語に関するルールのこと。

★☆☆ 無標 (unmarked)

エックマン (Eckman)の有標性差異仮説における、一般的で単純な言語に関するルールのこと。

★☆☆ 処理可能性理論/学習可能性理論 (Processability Theory)

ピーネマン (Pienemann)が提唱した仮説で、人は言語処理レベルが単純なものから習得し、複雑なものほど後に習得されるというもの。語は最も単純で習得しやすいが、句や文になると複雑になるので習得しにくいとされている。

★☆☆ 教授可能性理論 (teachability hypothesis)

ピーネマン (Pienemann)によって提唱された処理可能性理論を前提とする仮説。学習者はたとえ指導を受けたとしても段階を超えて習得することはできないとし、したがって段階を踏んだ指導は学習の効率を高められるとされている。

★☆☆ 臨界期仮説 (critical period hypotheses)

レネバーグ (Lenneberg)によって提唱された母語習得に関する理論で、言語習得には臨界期が存在し、ある年齢を過ぎると母語話者のような言語能力を習得するのは難しいとする仮説。この臨界期は思春期の12歳~13歳頃とされている。

★☆☆ 創造的構築仮説

学習者が第二言語を習得する際には、母語とは独立した新しい言語体系を作り上げていくという仮説。言語体系は0から新しく作り上げられると考えられているため、母語による影響はほぼないとされている。

★☆☆ 根本的相違仮説 (Fundamental Difference Hypothesis)

幼い子どもが言葉を覚えるメカニズムと、大人が第二言語を習得するメカニズムは根本的違うものであるとする仮説。大人が第二言語を習得する際には大きな個人差があるものの、子どもにはあまり差が見られない。

★☆☆ 習得順序研究

複数の文法項目がどの順序で習得されるかを研究する分野のこと。

★☆☆ 発達順序研究

ある文法項目が完全習得に至るまでの順序を研究する分野のこと。

★☆☆ 対照分析研究

言語間の類似点・相違点を比較することにより特徴を明らかにしようとする研究のこと。

★☆☆ 対照分析仮説

母語と第二言語の言語間の類似点・相違点を比較することによって、学習の難易度や誤りを予測することができるとする仮説のこと。

★☆☆ 沈黙期 (silent period)

第二言語習得の初期段階に見られる現象で、決まった言葉以外はほとんど話さない時期のこと。





日本語教育能力検定試験 解説, 用語集