言語接触と言語変種について

目次

 

言語接触 (language contact)

★★★ 言語接触 (language contact)

異なる言語や言語変種を使用する者同士が社会的に接触すること。またはその接触によって生じる現象のこと。

★★★ ピジン/ピジン言語 (pidgin)

異なる言語を話す者同士が意思疎通するため、お互いの言語の要素を組み合わせて作られた接触言語のこと。お互い正しい意思疎通をするために文法が単純化されたり、一つの単語が多義的に用いられたり、また、発音も簡略化される傾向がある。

★☆☆ ピジン化/言語の単純化

ピジン言語が自然に形成されていく過程において、文法が単純化されたり、一つの単語が多義的に用いられたり、発音が簡略化されていくこと。

★★★ クレオール/クレオール言語 (creole)

ピジン言語が長期間使用されることによってその地域の共通言語として定着し、母語として話されるようになった言語のこと。ピジンよりも単語が多くなり、文法が整っている傾向がある。

★☆☆ クレオール化

ピジン言語が長期間使用されることによってその地域の共通言語となり、母語として定着していく過程のこと。

★★★ 共通言語/リンガ・フランカ (lingua franca)

異なった言語を話す人や集団同士の意思疎通に用いられる言語のこと。日本語を学習している中国人と韓国人が意思疎通するために日本語を使用するとき、日本語が彼らのリンガ・フランカといえる。現代では英語が全世界に広く普及しているため、単に英語のことを指すこともある。

 
 

言語接触/方言接触の類型

接触によって起きる現象は取り替え(標準語化)、混交、導入、棲み分け、維持の5つに分類される。

取り替え
標準語化
既存の単語があるところに新たな同義の単語が伝播し、その新たな単語が既存の単語を追いやり取って代わること。
混交 既存の単語と新たに伝播した単語が合わさり、双方の一部分を残しつつ新たな単語が生まれること。
導入 混乱を避けるため、英語などのリンガフランカから全く新しい単語を導入すること。
棲み分け 既存の単語と新たに伝播した単語を多少異なるものとして役割を分担させ、共存させること。
維持 新しく伝播した語を受け入れず、元々の語を維持すること。

★☆☆ 取り替え/標準語化

言語接触によって起きる現象のうち、既存の単語があるところに新たな同義の単語が伝播し、その新たな単語が既存の単語を追いやり取って代わること。

★★★ 混交/混淆/コンタミネーション (contamination)

言語接触によって起きる現象のうち、既存の単語と新たに伝播した単語が合わさり、双方の一部分を残しつつ新たな単語が生まれること。または、造語法の一つで、複数の既存の語の一部を取って1語とする方法。「やぶる」と「さく」から「やぶく」を作るようなこと。

★☆☆ 導入

言語接触によって起きる現象のうち、混乱を避けるため、英語などのリンガフランカから全く新しい単語を導入すること。

★☆☆ 棲み分け

言語接触によって起きる現象のうち、既存の単語と新たに伝播した単語を多少異なるものとして役割を分担させ、共存させること。

★☆☆ 維持

言語接触によって起きる現象のうち、新しく伝播した語を受け入れず、元々の語を維持すること。

 
 

言語変種 (variation)

★★★ 言語変種 (variation)

同一言語の中の異なった言語形式のこと。標準語や方言、性差や年齢、立場、職業などの違いによって異なる言語形式を持つ。

★★★ 共通語/全国共通語/標準語

共通語(全国共通語)とは、同一言語を用いる文化圏で生活環境や方言の異なる者同士が、全国どこでも誰とでも意思疎通することができる言語のことであり、標準語とは、共通語よりも洗練され、人々への使用の強制力を有する最も規範的な言語のことをいう。この両者は厳密にいうと異なる定義を持つが、現在では同じ意味として用いられることが多い。言語変種の一種。

★☆☆ 公用語

その国において、公の場での使用が定められている言語のこと。公的機関にはこれを用いる義務が課される。一つの言語とは限らない。

★★★ 方言

特定の地域や位相で使用される言語変種のこと。地域方言と社会方言に分けられる。

★★★ 地域方言

地域差による異なった言語形式のこと。言語変種の一種。

★★☆ 方言周圏論/周圏分布型

特定の語や音、言語形式が、文化的中心から同心円状に伝播していくような分布を示すこと。柳田国男が提唱した。

★☆☆ 東西分布型

特定の語や音、言語形式が、東日本と西日本で対立しているような分布を示すこと。

★☆☆ 新方言

若者が方言から取り入れた標準的ではない言い方のこと。「~じゃんか」「~分からんくなった」など。

★☆☆ ネオ方言

標準語と方言の混淆形式として生まれた中間的な言い方のこと。方言の「けーへん」、標準語の「こない」が混淆して「こーへん」となるのが代表的な例。

☆☆☆ 方言コンプレックス

自分の使う方言に対する劣等感のこと。

☆☆☆ 方言コスプレ

自分が演じたい人物像や雰囲気に合わせて方言を用いること。用いる方言は地元の方言とは限らない。

☆☆☆ 方言札

方言矯正教育として、方言を話した人に対する罰として首に下げさせた木札のこと。標準語の使用を強制させるために行われ、特に沖縄で厳しく行われていた。

★★★ 社会方言/位相語

性差、年齢、年代、階層差、階級差、職業、生活環境、趣味、嗜好などの社会的な属性(位相)の違いによる言語変種のこと。

☆☆☆ 男性語

男性特有の言葉のこと。一人称の「俺」「僕」「自分」や、語尾の「だろ」「だぞ」「ぜ」などは一般に男性によく用いられる。社会方言の一種。

☆☆☆ 女性語

女性特有の言葉のこと。一人称の「あたし」「うち」などは一般に女性によく用いられる。社会方言の一種。

☆☆☆ 幼児語

乳幼児期に幼児や周囲の人が幼児に対して用いる言葉のこと。ご飯をマンマ、寝ることをネンネなどと言う。社会方言の一種。

☆☆☆ 老人語

高齢者特有の語彙や表現のこと。または、役割語において老人を想起させるような表現のこと。「わし」など。社会方言の一種。

★★☆ 集団語

ある特定の集団の中で用いられる言葉のこと。スラング、隠語、職業語、術語、業界用語、専門用語、廓言葉、女房詞、てよだわ言葉、キャンパス言葉などを含む。

★★☆ 俗語/スラング (slang)

ある特定の集団の中で用いられる、一般的に品の無いとして認識されている言葉のこと。社会方言の一種。

★☆☆ 隠語

ある特定の集団の中で用いられる言葉のこと。外部に秘密を漏らさないためや、仲間意識を高めるために用いられるものがこれにあたる。社会方言の一種。

★☆☆ 術語/学術用語

学問などの分野で用いられる用語のこと。社会方言の一種。

☆☆☆ 業界用語

同じ職業の集団の中で用いられる言葉のこと。それ以外の人には普通通じない。社会方言の一種。

☆☆☆ 専門用語

ある特定の職業や分野、業界でのみ通用する言葉のこと。社会方言の一種。

★★☆ 役割語

特定の人物像を想起させる言葉のこと。例えば、「わし」という言葉には老人のイメージが含まれることが例として挙げられる。ただし「~なんじゃ」や「~わよ」のように、そのほとんどは実際の言語活動にはほとんど見られない表現が見られる。これらは一般的にドラマ、映画、小説などのフィクションにおいて、聞き手に登場人物のイメージを膨らませるために用いられる。社会方言の一種。

☆☆☆ 廓詞

江戸時代の遊郭で遊女が使った言葉遣いのこと。

★☆☆ 女房詞/女房言葉

宮中の女官が使い始めた言葉のことで、語頭に「お」をつけたり、語末に「もじ」をつけたりする。現代でも用いられている言葉もある。

☆☆☆ てよだわ言葉

明治時代に発生した、文末に「てよ」「だわ」をつける女性語の言葉のこと。現代では用いられなくなり、「だよ」「だね」「じゃん」などが用いられるようになっている。

☆☆☆ キャンパス言葉

大学生の間で使われる言葉のこと。

★★☆ ティーチャートーク (Teacher Talk)

教師が学習者に対してする話し方のことで、学習者のレベルによってその話し方は変わる。

★★☆ フォリナートーク (foreigner talk)

母語話者が非母語話者に対してする話し方のことで、ゆっくり話したり、繰り返したり、簡単な語彙や文法を扱って分かりやすいように話すのが特徴的。

☆☆☆ ベビートーク (baby talk)

赤ちゃんに対する話し方のこと。

★★☆ やさしい日本語

日本語に不慣れな外国人にも理解できるよう分かりやすくした日本語のこと。1995年1月の阪神・淡路大震災で日本語に不慣れな外国人に必要な情報を伝えることができなかったことがきっかけとなり、災害発生時に適切な行動をとれるように考え出された。社会方言の一種。

★★☆ 言語使用域/レジスター (Register)

場面や状況、内容、人間関係、口頭か文書か等に応じて使い分けられる言語変種のこと。例えば、母親の前では「ママ」、学校などで母親について触れるときは「お母さん」、比較的改まった場では「母親」と呼んだりすることが挙げられる。つまり、同じ役割を持つ語を状況によって使い分け、それぞれの語がそれぞれの使用域を持っていると考える。

★★★ スピーチレベルシフト/スピーチスタイルシフト

1つの場面で1人の話者が普通体から丁寧体、あるいは丁寧体から普通体へと切り替えて丁寧さの度合いを変化させること。

★★★ ダイグロシア (diglossia)

ある社会において高変種と低変種の二つの言語変種が存在し、それぞれが場面や状況によって使い分けられている状態のこと。高変種とはいわゆる公的な場面で使用される言語形式のことで、H(High)変種とも呼ばれる。低変種は口語や方言において現れる、より私的な場面で使用される言語形式のことで、L(Low)変種とも呼ばれる。

★★☆ H変種/高変種 (H form)

ダイグロシアのうち、公的な場面で使用される言語形式のこと。

★★☆ L変種/低変種 (L form)

ダイグロシアのうち、口語や方言において現れる、より私的な場面で使用される言語形式のこと。

★☆☆ 顕在的権威 (overt prestige)

社会的地位が高く見られている標準的な言語形式(H変種)を無意識に好む傾向のこと。トラッドギル(P.Trudgill)により提唱された概念。一般に、年齢が高くなるにつれ若者言葉やスラングなどの使用が減り、社会的地位が高く見られている言語変種を用いる傾向がある。

★☆☆ 潜在的権威 (covert prestige)

社会的地位が低く見られている非標準的な言語形式(L変種)を無意識に好む傾向のこと。トラッドギル(P.Trudgill)により提唱された概念。一般に、年齢が低いほど社会的地位が低く見られているスラングなどの言語変種を用いる傾向がある。

★★★ コード・スイッチング (code switching)

相手や場面、話題に応じて言語そのもの、あるいは同一言語内の言語変種を使い分けること。標準語も方言を言語変種のため、これらを使い分けることもコードスイッチングの一種となる。これらは会話的コードスイッチング、状況的コードスイッチング、隠喩的コードスイッチングの3つに分けられる。

☆☆☆ 会話的コードスイッチング

会話の流れを維持しながら行われるコードスイッチングの一種で、情報を補足したり、相手の発話を引用したり繰り返したりするなどに用いるコードスイッチングのこと。

☆☆☆ 状況的コードスイッチング

状況や場面に応じて行われるコードスイッチングの一種。外的要因によってスイッチするものを指す。

☆☆☆ 隠喩的コードスイッチング

話し手との親密さや連帯感を強めるために行われるコードスイッチングの一種で、発言に何らかの特別なニュアンスを付与するために起こるもの。内的要因によってスイッチするものを指す。

★☆☆ 転訛

「してしまう」が「しちゃう」、「すごい」が「すげえ」、「めんどくさい」が「めんどくせえ」、「てまえ」が「てめえ」のように、本来の音が簡略化され訛ること。そのように訛った後の形を縮約形、または転訛形と呼ぶ。





日本語教育能力検定試験 解説, 用語集