日本語学習者は動テ形から動詞のグループを判別できるか

 例えば、こんな知識を持っているAIがいたとします。

五段動詞は「く」「ぐ」「む」「ぶ」「ぬ」「る」「つ」「う」「す」で終わることを知っている。
一段動詞は必ず「る」で終わることを知っている。
五段動詞の最後の音からテ形に活用するルールを知っている。
一段動詞のテ形は、最後の「る」を「て」にして作られることを知っている。
動詞語幹の最後に促音は来ないことを知っている。
カ・サ・タ・パ行以外の行の音の前に促音は来ないことを知っている。
ただし、全ての動詞及びそれらのグループについては知らない

 このAIがある動詞の動て形を見て、その動詞を辞書形にしたりグループを判別できるでしょうか。

 日本語学習者は会話で初めて聞いた動詞の活用形から、その動詞が一段動詞か五段動詞か、辞書形は何かということをその場で瞬時に判断しなければならないことがあります。その時に必要なのが動詞に関する知識と、テ形やマス形などの関する活用の知識です。逆算して辞書形を導き出そうとする過程は日本語学習者ならではで、私たち日本人には想像もできないくらい複雑です。

 

 

動テ形から逆算して、グループを判別してみる

 日本母語話者としての知識は全く使わず、上にまとめたAIの知識だけを元に動テ形から辞書形やグループ判別を試みてみます。日本語学習者目線から日本語の動詞の複雑さを見てみましょう。

 

テ形が「~いて」になるもの

 一段動詞は動詞の最後の「る」を「て」に直すだけなので、「書いて」が一段動詞なら「書いる」になります。また、五段動詞の最後が「く」ならテ形は「いて」になるというルールがあるため、もし五段動詞なら「書く」となります。テ形で「~いて」の形をとる動詞は「書いて」や「強いて」など五段動詞にも一段動詞にも存在するので、辞書形は導き出せても、グループまでは判別できません。

 

テ形が「~いで」になるもの

 一段動詞は動詞の最後の「る」を「て」に直すだけなので、テ形に「で」が現れることは絶対にありません。なので一段動詞ではないことが分かります。(※1)
 そして五段動詞の最後が「ぐ」ならテ形は「いで」になるというルールがあるため、辞書形は「脱ぐ」で五段動詞であることが判別できました。

 

テ形が「~んで」になるもの

 「~いで」と同様に、一段動詞のテ形に「んで」が現れることは絶対にありません。なので「~んで」の形をとっている時点で一段動詞ではないことが分かります。(※2)
 また、五段動詞の最後が「む」「ぶ」「ぬ」ならテ形は「んで」になるというルールがあるため、辞書形は「飲む」「飲ぶ」「飲ぬ」の3つに絞られます。ここで古語を除き、「ぬ」で終わる動詞は「死ぬ」しかないという知識があるなら、「飲ぬ」は除外されます(※3)。いずれにしても、五段動詞であることは判明しましたが、辞書形の特定にまでは至りませんでした。

 

テ形が「~って」になるもの

 一段動詞は動詞の最後の「る」を「て」に直すだけなので、「取って」が一段動詞なら「取っる」になります。しかし、カ・サ・タ・パ行以外の行の音の前に促音は来ないというルールがあるため、これは間違いとなります。
 そして、五段動詞の最後が「る」「つ」「う」ならテ形は「って」になるというルールがあるため、辞書形は「取る」「取つ」「取う」の3つに絞られます。五段動詞であることは判明しましたが、辞書形の特定にまでは至りませんでした。

 

テ形が「~して」になるもの

 一段動詞は動詞の最後の「る」を「て」に直すだけなので、「話して」が一段動詞なら「話しる」になります。また、五段動詞の最後が「す」ならテ形は「して」になるというルールがあるため、「話し手」が五段動詞なら「話す」になります。いずれの可能性も残りました。

 

テ形が「行って」になるもの

 「取って」と同じ考え方をすれば一段動詞なら「行っる」となりますが、カ・サ・タ・パ行以外の行の音の前に促音は来ないというルールがあるため、これは間違いです。そして、五段動詞の最後が「る」「つ」「う」ならテ形は「って」になるというルールがあるため、辞書形は「行る」「行つ」「行う」の3つに絞られます。
 ところが「行く」は五段動詞でテ形の活用が例外的なので、それを知らなければ五段動詞だとは分かっても辞書形までは特定することができないようです。(※4)

 

下一段動詞「食べて」などの場合

 一段動詞は動詞の最後の「る」を「て」に直すだけなので、「食べて」が一段動詞なら「食べる」になります。また、「~べて」となる五段動詞のテ形は存在しません(※5)ので、辞書形もグループも特定することができました。
 一段動詞は上一段と下一段に分けられ、上一段はイ段、下一段はエ段で活用します。五段動詞のテ形にはイ段を含む「~して」しかないため、「食べる」のような下一段動詞はその時点で五段動詞ではないことが分かります。

 

上一段動詞「用いて」などの場合

 一段動詞は動詞の最後の「る」を「て」に直すだけなので、「用いて」が一段動詞なら「用いる」になります。また、五段動詞の最後が「く」ならテ形は「いて」になるというルールがあるため、もし五段動詞なら「用く」となります。テ形で「~いて」の形をとる動詞は「書いて」や「強いて」など五段動詞にも一段動詞にも存在するので、辞書形は導き出せても、グループまでは判別できません。

 

2拍の一段動詞「見て」などの場合

 一段動詞は動詞の最後の「る」を「て」に直すだけなので、「見て」が一段動詞なら「見る」になります。また、五段動詞のテ形は語幹に「いて」「いで」「んで」「って」「して」が加わり、必ず3拍以上になります。「見て」は2拍なので、この面から見ると五段動詞ではないことが分かります。(※6)

 

まとめ

 上記の知識を用いれば、以下のような結果となります。

辞書形の特定 グループの特定
~いて
~いで ◯(五段)
~んで ◯(五段)
~って ◯(五段)
~して
行って ◯(五段)
下一段のテ形 ◯(一段)
上一段のテ形
2拍の一段のテ形 ◯(一段)

 「~いて」「~して」と上一段動詞のテ形の場合は、正確な活用規則の知識があったとしてもグループまでは特定することができません。そして「~んで」「~って」「行って」の場合も複数の選択肢があるため一つに絞れず辞書形を特定できません。つまり辞書形からテ形への活用を教えても、テ形から辞書形を完璧に再現することや、テ形を見てグループを全て判別することは不可能ということになります。役には立ちますが、分からない部分は結局推測です。

 また、ある文章から動詞のテ形を取り出して動詞のグループや辞書形を割り出すようなプログラムを作る場合も、例外処理が多くなり困難を極めます。これも結局は動詞一つひとつに対応したテ形の情報を与えるか、形態素分析で直接グループや辞書形を取り出すかしかありません。現実的なのは後者です。

 実際の会話の場面では、その動詞が一段動詞か五段動詞か相手に尋ねれば解決することですが、試験ではできません。やっぱりAIでもない人にとっては、動詞一つひとつに対してグループを覚えていくしかないのでしょう。やはり日本語の動詞は複雑ですね。

 





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