日本語教師のお仕事

 2年生にはとっても不思議な学生がいます。彼女の周囲には特別な雰囲気があり、その言動も特殊。他の学生も口を揃えて変な人と言いますが、侮蔑的な意味は一切なく、彼女は常に良い意味での注目を集めているのです。この辛さんはとにかく本当に本を読みます。特に日本・中国の文化や文学に詳しく、彼女の興味対象の範囲は一般人のそれを遥かに凌駕します。今日はその辛さんと2時間ほど会話する機会がありました。対面で会話をするのは始めてのことで、やっぱり彼女とする会話の内容は刺激的なものでした。

 彼女から飛んできた最初の質問は、私の予想の遥か上空。
 先生、アジアインフラ投資銀行を知っていますか?
 日本のニュースは毎日確認していますが、この話題、学生にわざわざ中国と日本の経済関係を説明する機会はないだろうなあと思っていたのです。やっぱり辛さんは一味違いました。
 どうして日本はAIIBに参加したくないんですか?
 鋭い質問をしてきます。ここからの私の解答は適切だったかどうかは判断できません。あくまで私の意見ではないということを前置きしておいて、日本の公にされている立場と目的を伝えました。「やっぱり先生は先生ですね!」なんて言われましたが、経済だけではなく政治の問題も絡んでいますからこういった質問は難しいものがあります。

 さらに・・・
 日本に国有の銀行はありますか?
 中国では銀行すべて(?)が国有だと彼女から聞きました。つまり銀行が潰れることがないようなのです。この質問に付随して「なぜ日本の銀行は潰れるのか」という質問もされました。銀行が潰れることは滅多にありませんが、万が一そんなことが起これば大ニュースになるでしょう。そして次々連鎖を起こすかもしれません。しかしありえない話ではないのです。この説明には普段使わない語彙をたくさん使いましたが、彼女はそのほとんどを理解できました。

 彼女とのご飯は学校近くのファストフード店。日本にいるときにこういったお店に入ったことは1度たりともありません。まさか人生初のファストフードが中国だとは予想もしませんでした。そしてその店内でなんて不釣合いな会話。やっぱり彼女は尋常ではありません・・・。これでまだ2年生です。

 その次の質問もまた予想外。
 先生、アニメのハンターは好きですか?
 HUNTER×HUNTERのことです。彼女も2011年のアニメを全て見ていたようで、経済の話の後は一転、アニメの話でも盛り上がり、彼女の話題の広さに本当に驚かされます。一番好きなキャラはキルアらしく、非常に聡明で雷がカッコいいと言ってました。ギャップが半端ではないですね~!

 そうこうしているうちに2時間経ち、私達は学校へ帰りました。あっという間でしたね。やはり学生と会話をしていると時間が経つのが信じられないくらい早い。中国での生活を楽しんでいる証拠です。来週か再来週、また彼女と話す機会がありますから、その時にどんな話題が飛んでくるのか今からとっても楽しみにしています。

日本語教師のお仕事

 今日は3年生のある学生から連絡を受け、お昼に一緒にご飯を食べました。彼女はこの学校の中で最も日本語能力が高い学生です。彼女からの連絡は1週間に一度ほどあり、その度にJLPT N1の試験問題の説明を求められます。彼女の質問はいつも高度で、私自身もすぐには解答を得られないようなものばかりです。今日の質問もなかなか厳しいものでした・・・。

 「~ともあろうものが」と「~たるもの」の区別について教えて欲しい。

 絶句です。いくつかの例文から仮説を立てて説明をしていきますが、1度目は失敗。結局30分ほど考えて、ようやく納得のいく結論が出ました。

 「~ともあろうものが」は、既に発生している出来事について使われるようです。例えば・・・
 ①政治家ともあろう者が、金儲けのために目の色を変えるとは何事か!
 ②警察官ともあろう者が、暴力団に捜査情報を流していたとは、許し難いことだ。
 ③先生ともあろうものが,金を盗むなんて
 目の色を変えたのは過去です。操作情報を流したのも過去、金を盗んだのも過去です。ですから、既に起きた出来事について述べるときは「~ともあろうものが」を使います。

 「~たるもの」は、多くの場合「~すべき」「~しなければならない」と呼応します。既に発生している出来事に関しては使用しません。本来どうあるべきかを述べるときに、行動に釘を刺す(指摘する/当然必須)というニュアンスで使う場合が多いみたいです。
 ①教師たる者、生徒のお手本にならなければならない。
 ②紳士たるもの、強く優しくなければならない。
 ③経営者たるものは、一般的な法律や年金制度について知っておかなければならない。

 このルールに従ってN1の問題を解いてみたら全問正解でした!きっと良い線いってますね。ちなみに中国人教師にこの質問をしたときに解答を濁されたようです。困ったので私に質問してきたとのこと。彼らの質問を漏らす事なく答えることが私の信用に繋がりますから、その時分からなくても「私の宿題」として持ち帰り、後日必ず解答をするようにしています。学生の質問が難しいからといっても私は日本人ですから、考えればできるんだなあと自信を持てましたね。

 結局その学生とは4時間も2人で話していました。彼女の能力は本当に高く、会話をしている時中国人だということをあまり意識しません。末恐ろしい学生です・・・。
 
 
 中国では中国語の文法などを学校で勉強するようなのですが、日本ではわざわざ日本語の文法を学校で勉強したりしません。日本人は日本語の規則を、日常の生活で自然と身につけているわけです。そのためぽっとでの日本語教師なんかより、そこら辺の中国人日本語学習者の方が文法に詳しかったりします。これはしょうがないことですが、”言語感覚”というのはネイティブに備わった最強の能力。学生の驚異的な暗記によってしても、日本人教師の威厳が犯されることは絶対にないでしょう。

日本語教師のお仕事

 会話の授業で何をするかという課題は、きっとどの教師も頭を悩ませていることだろうと思います。当然私もそうです。お手本になる先輩もいないまま、我流で会話の授業を毎週行ってきていますが、部屋に帰っては常に試行錯誤の連続。

 私は会話の授業で一番大切にしていることがあります。それは、“授業では出来るだけ楽しんでもらう”ことです。会話の教科書が存在しますが、この教科書通りに授業を進めても良い事はないと確信しています。学生は教科書で真面目に勉強するのは嫌だと言っていますし、教科書の内容自体あまり使わないような表現だって多い。何より教科書の内容を暗記するだけなら日本人教師はおろか、教師すら必要ないわけです。

 この学校には私しか日本人がいないため、自ずと自分の役割は決まっています。「好きこそ物の上手なれ」という諺の通り、学生の日本語に対する意欲を引き出してあげさえすれば自然に上達するはずです。私はあくまでそのサポートに徹するだけです。

 さて、今日行ったのは20の質問というゲーム。Akinatorの真似事を授業で出来ればいいなあと思って試してみました。

 ルールは簡単。
 まず学生1人(出題者)が教壇まで出てきます。そして用意しておいた紙を1枚引きます。紙には単語が書かれており、出題者しか見ることができません。準備が整ったら、その他の学生から質問を受けます。学生からの質問は、必ず「はい」「いいえ」で答えられるような形式にして、出題者は「はい」「いいえ」「ときどき」「分からない」の4択から解答します。20問という限られた質問数の中で、出題者の単語を当てます。正解した人が次の出題者になります。

 これがとても盛り上がりました。

 授業終盤になり、紙ではなくお題を自分で考えてみてくださいと学生に伝えたところ、その学生は「”顔”にします」と私に言いました。学生からは質問が次々飛び交います。「生きていますか?→いいえ」「教室にありますか?→はい」などなど。そんな中、「大きいですか?」という質問が飛んできて、私と学生は同時に顔を合わせて笑ってしまいました。顔が大きいかどうかなんて「はい」でも「いいえ」でもない・・・。かと言って「ときどき」というのは失礼になる。ちなみにその学生は女子学生ですから、余計解答に困ったのでしょう。私が代わりに「分からない!」と答える場面もあり、予測不能な部分もまた楽しいですね。

 しかし色々問題がありました。出題者を除き、他の学生は25名ほどいたので、質問があちらこちらから飛び交います。そのため20問という制限はあまり意味を成しませんでした。正解したら次の出題者ですから、みんなやりたかったのでしょう。「机ですか?」「椅子ですか?」「電気ですか?」「窓ですか?」など、自分が絶対当ててやろうと、超具体的なものを連続で質問する傾向があったので、こういった部分をどう改善するかですね。論理的に推測するのが面白いのに、解答者が多いのでスピード勝負になっているのです。

 ですが余計な規制をかけると面白みが削がれてしまうので、基本的には放置でいいと思います。なにより今までやったゲームの中で一番楽しそうでしたから、今日は私も大満足です!バッチリ心を掴めました。さて、来週はどんなゲームをしようかな!