日本語コラム

 先日知り合いの先生からこのような質問が来ました。

漫画に「る゛」があると生徒に聞かれましたが、これはどのように説明すればいいですか?

 本来ラ行に濁点は付きません。当然教科書には存在しない文字なのですが、この漫画では使われています。日本語学習者から見ると「なんじゃこりゃ」と思ってもおかしくありません。

 さて… 学生にどう説明しましょうか。答えは簡単です。

 日本語の発音に「る˝」は存在しませんが、「る」を強く言う場面で便宜上このように表記することが極稀にあります。漫画の登場人物が泣きながら話しているところを見ると、演出の一種だと思われます。

 重要なことは、「る」も「る゛」も発音としては変わりません。作者さんの意図で、ただ強調したいのだと思われます。

 「る」以外に見かける可能性が高いのは「あ゛」でしょう。大きい声で叫ぶときにこのように表記することがあります。いずれにしても強調ですね。

 「だくてん」で変換すると「゛」になります。スマホやパソコンでは、「あ+だくてん」で2文字分使って入力するのが一般的です。
 感情表現の一種だと思ってSNSなどで使ってみてはどうでしょうか。

日本語コラム

 学生はアメリカ人の先生を親しみを込めて名前で呼びます。名前がJohnならストレートにJohnと呼ぶわけです。しかし日本人の先生に対して苗字や名前で呼んだら大変失礼です。さんや君などの敬称をつけずに呼ぶことを呼び捨てと言って、これは通常目上から目下に使われる呼び方です。

 毎年新1年生には1人2人くらいそういう人がいます。
 悪意はなく親しみを込めて呼んでくれているのは十分分かりますので特に気分を害することはありませんが、万が一別の先生が聞いていた場合は説教が始まってもおかしくありませんね。

 そしてつい先日、そういう一幕がありました。

1年生 : たかはし~ こんばんは!
わたし : おっ、こんばんは!
3年生 : すごく失礼ですよ!
1年生 : (´・ω・`)…?
3年生 : 先生をそうやって呼ぶのは失礼だから、「先生」と呼びなさい!
1年生 : (人ω<`;)

 3年生と一緒に散歩してた時に偶然その1年生に会い、間髪入れずに叱ってくれました。本当に先輩の鑑です。
 1年生はまだとっさに「ごめんなさい」「すいません」が言えなかったせいで笑ってごまかす感じになりました。あのままずっと居れば気まずくなっていただろうと思いますが、私たちは散歩中でしたのでそそくさと立ち去り、その1年生にとっては良い経験になったかなと思います。

 私はこういうことにあまり注意しません。日本語教師としてダメですかね…
 わざとでなければ悪意もないですし、注意しなくてもいずれ自分の間違いに気付く時があります。私が注意するよりも他人から注意されたほうが強い印象になります。
 今回ばかりは3年生に拍手ですね!

日本語の違い, 日本語コラム

 ある本にこんな問題がありました。

20.君(   )信頼できる人はいない。
 [A] ほど
 [B] より
 [C] だけ
 [D] さえ

 私の第一感はBの「より」だったんですが、参考書によると答えはAの「ほど」だそうです。確かにAでもいいんですが、Bでもよくないですか…?
 というわけで比較を表す「より」と「ほど」の違いについて調べてみました。

 

助詞「より」について

 比較と起点の用法がありますが、ここでは比較の用法についてのみ述べます。

「より」の文型は2つある

 「より」が用いられる文型は「AはBより~だ」と「BよりAのほうが~だ」の2つあります。「より」は比較の基準を示し、「ほう」は比較対象を強調します。直接的に比較をする際に用います。
 
  (1) 彼より頭が良い。 (彼>私)
  (2) 私より彼の方が頭がいい。 (私<彼)
  (3) 飛行機新幹線より速い。 (飛行機>新幹線)
  (4) 新幹線より飛行機の方が速い。 (新幹線<飛行機)
  (5) 電話メッセージより伝わりやすい。 (電話>メッセージ)
  (6) メッセージより電話の方が伝わりやすい。 (メッセージ<電話)

 

「より」の後ろには必ず肯定形が来るらしい?

 参考書に書いていたのですが、「より」を使うときは後ろに否定形が来ないと書いていました。このルールに従うと、以下の例文は非文になってしまいます。

  (7) この店はあの店より安くない。 (この店>あの店)
  (8) あの店よりこの店のほうが美味しくない。 (あの店>この店)

 しかしこれは間違いではないはずです。「より」と否定形が呼応するケースは日常会話の中でも多くあり、「~よりほかない」「~よりしかたがない」などの文法でも用いられています。私としてはこの説に懐疑的です。

 

助詞「ほど」について

「ほど」の後ろには必ず否定形が来る

 「ほど」で表された比較の程度は「より」よりも小さく、わずかに差がある時によく用いられます。「ほど」の後ろには必ず否定形が来て、肯定形は来ません。間接的に比較する際に用います。

  (9) 私は彼ほど頭が良くない。 (私<彼)
  (10) 新幹線は飛行機ほど速くない。 (新幹線<飛行機)
  (11) メッセージは電話ほど伝わりやすくない。 (メッセージ<電話)
  (12)✕野球はサッカーほど疲れる。

 

 

「より」と「ほど」の違い

「ほど」は否定形、「より」はどちらでもいい

 両者の違いを見たときに明らかに違う点は、「ほど」は絶対に「~ほど~ない」の形をとることです。後項に肯定形を使うと非文になります。
 一方「より」は参考書によると必ず後ろは肯定形だそうですが、会話においても文法においても否定形と呼応するケースが多く見られます。ここでは肯定形でも否定形でも非文にならないものとして結論付けます。

 要するに、否定文を使って間接的に比較をしたいのなら「ほど」を使い、「より」はどんな場合にでも使うことができます。

 

「最も良いものを選びなさい」ってずるい

 最初の問題に戻ります。

20.君(   )信頼できる人はいない。
 [A] ほど
 [B] より
 [C] だけ
 [D] さえ

 普通試験では問題を出す前に「選択肢の中から最も良いものを選びなさい」と言われます。最も良いものとは、仮に答えが2つあったとしても最も適当だと思われる選択肢を選びなさいと言っているわけで、今回はそれが問われているんだと思います。

 私がBの「より」でもいいと思ってしまったのは、「より~ない」の形を正しい日本語として認識していたからではありますが、文末に否定形がある以上、「より」よりも「ほど」を選択するべきだという出題者の意図があるかもしれません。

 こういう問題が出てくると、仮に日本人だろうと満点取れなくなってしまいますよね。

 

まとめ

 「より」の後ろは肯定形でも否定形でも構わない。
 「ほど」の後ろは必ず否定形が来る。

 正しいと思われる選択肢が2つ以上あったとしても安直に選ばずに、文法から見てどれが最も適当かをちゃんと見極めましょう。