日本語の色んなお話

 学生→学生たち、私→私たち、あなた→あなたたちのように、「たち」をつければ人称代名詞の複数形になることは1年生の早い段階で教わることです。しかし、この「たち」は”彼女”に使えても、”彼”には使いにくいようです。実際2年生3年生になっても「彼たち」と言ってしまう学生は少なくなく、私もよく訂正したりしています。

 

検索結果の件数を見ると、やはり「彼たち」は少数

 yahooやgoogleの検索エンジンでそれぞれの三人称代名詞の複数形がどれほどヒットするのか、その件数を調べてみました。

Yahoo! JAPAN Google Twitterリアルタイム検索
彼ら 129,000,000件 132,000,000件 578,356件
彼女たち 30,300,000件 28,700,000件 53,693件
彼たち 105,000件 114,000件 792件
彼女ら 6,040,000件 18,000,000件 29,297件

 ※2019年6月17日現在の検索結果
  Twitterリアルタイム検索は2019年5月19日から6月17日までの30日間の件数

 Googleの検索件数による比較だと、「彼ら」は「彼たち」の1000倍以上使用されており、桁が3つも違います。さらにTwitterリアルタイム検索の最近30日間によると「彼たち」は792件でしたが、このうち「元彼たち」という単語が多くヒットしていましたので、これを除いた実際の値はもっと低くなるはずです。よって「彼ら」が最も使われ、「彼たち」はほとんど使われていないことが分かりました。

 一方、「彼女たち」は「彼女ら」の1.6倍ほどで「彼女たち」のほうがより使われていると言えますが、その差はあまり開いていないのでいずれも一応市民権は得られていると言っても良さそうです。

 

参考書とかwikiとかで調べてみた結果

 初級の教科書には「彼ら」はありますが、「彼たち」はありませんでした。ここでは意味が「那些人」となっておりますので、「彼ら」は男性が複数いても、女性が複数いても使うことができるということを指しています。

 

 三人称 – Wikipediaにはこのように書かれています。「彼ら」はありますが、「彼たち」はありません。一方「彼女ら」「彼女たち」はいずれも書かれています。

 

 N5、N4の単語を網羅した参考書には「彼ら」の欄に「彼たち」も記載されていました。しかしこの参考書は著者、編者に日本人が一人も含まれていませんので信頼性に欠けます。

 

まとめ

 以上のように、「彼ら」はよく使いますが、「彼たち」はあまり使われません。
 初級の日本語学習者にこのような間違いが多いので、学習または指導の際には注意が必要になりますね。

 

日本語の色んなお話

 テレビのあるインタビューで、「ピンクい」という言葉を使っていた女性を見ました。ピンクは赤と白を混ぜてできる、ちょうど桜の花のような色を表す外来語名詞です。これに「い」をつけて形容詞化しているのが「ピンクい」なんですが… こんな言葉初めて耳にしました。

 

 

「ピンクい」は他の色と比べて特別

 調べたところ、「ピンクい」は沖縄や名古屋で使われている言い方のようです。少なくとも私の出身地青森では生まれてこのかた、一度も聞いたことがありません。地域によって使われている方言のようなものなのかもしれません。

 「色を表す外来語+い」で形容詞が作れるなら、じゃあ他の色もできるんじゃないの?って考えてしまうのですが、そうもいかないみたい。

 

色を表す外来語 色を表す外来語+い
レッド レッドい 「赤い」でいい
オレンジ オレンジい 語感が悪い
イエロー イエローい 長音が邪魔だし、「黄色い」でいい
グリーン グリーンい 長音と撥音が邪魔
ブルー ブルーい 長音が邪魔だし、「青い」でいい
パープル パープルい 何とも言えない
ホワイト ホワイトい 「白い」でいい
グレー グレーい 長音が邪魔
ブラック ブラックい 「黒い」でいい

 
 「オレンジい」みたいに、「い」の直前の音の母音が「i」のときものすごく言いにくくなっちゃいます。直前に長音や撥音が来るものも同様ですから、もし一般的に使われるようになるなら省略されるのではないかなと思います。というか、そもそも赤い、黄色い、青い、白い、黒いが既にありますので、色で外来語形容詞を作る必要はこれ以上なさそう。

 だから、これらに当てはまらない「ピンクい」は特別なことが分かります。

 

意外と少ない「外来語形容詞」

 ここからは余談ですが、日本語の中にはたくさんの外来語があります。

 フランス語の「サボタージュ(sabotage)」を略した「サボ」に接尾辞「る」を付加して作られた「サボる」や、ドイツ語の「アルバイト(Arbeit)」に「する」を付加した「アルバイトする/バイトする」などは外来語名詞を動詞化したものです。
 他にも、「カラフル」「セクシー」「デリケート」「パーフェクト」「スムーズ」などの名詞に「な」を付加することで、形容動詞としての使い方もできます。

 外来語名詞が動詞化、形容動詞化される例は挙げればきりがないくらいで、今現在日本語の中にかなり浸透しています。

 
 ところが、意外にも外来語名詞に「い」を付加して形容詞化されたものはかなり少ないです。

外来語名詞 外来語形容詞 意味
エロ
(erotic)
エロい 性的魅力がある様子
グロ
(grotesque)
グロい 残虐的な、残酷な、不気味な
エモ
(emotional)
エモい 感情が動かされた状態を意味する。
ラグ
(lag)
ラグい オンラインゲームで処理に遅延が発生していること。「重い」とほぼ同義。
ピンク
(pink)
ピンクい 沖縄や名古屋で使われている表現。「ピンク色の」と同義。
ナウ
(now)
ナウい 「今風の」という意味。今では死語。

 「ピンクい」はまだまだ日本中に浸透していませんし、「ラグい」は主にネットで用いられている語、「ナウい」は既に死語でもう使われていません。

 近年使われ出した「エモい」を含めると、“生きている”外来語形容詞は「エロい」「グロい」「エモい」の3つということになります。それほど外来語形容詞は定着しにくいみたいですね。

 

「ピンクい」は定着する?

 「ピンクい」は語感も悪くないですし、「ブルー:青い」のように対応する元々の形容詞がないことから、もしかしたらこれから次第に使われ出すかもしれません。否定形「ピンクくない」はやや言いにくいのが気になりますが、「しにくい」「しにくくない」が既にありますので、定着には大きな問題はないように思います。

 色の言い方も現在進行で変化しているみたいなので、個人的にはこれからの「ピンクい」の動向に注目です。

日本語の色んなお話

 先日知り合いの先生からこのような質問が来ました。

漫画に「る゛」があると生徒に聞かれましたが、これはどのように説明すればいいですか?

 本来ラ行に濁点は付きません。当然教科書には存在しない文字なのですが、この漫画では使われています。
 日本語学習者から見ると「なんじゃこりゃ」と思ってもおかしくありません。

 このような日本語を学生にどう説明すればいいんでしょうか…。

 
 日本語の発音に「る˝」は存在しませんが、「る」を強く言う場面で便宜上このように表記することが極稀にあります。漫画の登場人物が泣きながら話しているところを見ると、演出の一種だと思われます。

 重要なことは、「る」も「る゛」も発音自体は変わりません。作者さんの意図で、ただ強調したいのだと思われます。

 「る」以外に見かける可能性が高いのは「あ゛」でしょう。
 大きい声で叫ぶときにこのように表記することがあります。いずれにしても強調です。

 「だくてん」で変換すると「゛」になります。スマホやパソコンでは、「あ+だくてん」で2文字分使って入力するのが一般的です。
 感情表現の一種で、SNSなどで使うこともあるかもしれませんね。